法律・税務・賃貸Q&A

手付貸与の禁止

弁護士 渡辺 晋
山下・渡辺法律事務所

質問

宅建業者が売主となって売買契約を締結するにあたり、手付金を後日支払うという取決めをすることができるでしょうか。

月刊不動産2012年01月号掲載
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回答


1.宅建業者が売主となる場合、信用を供与して契約締結を誘引する行為は、禁止されます。手付金を後日支払うとの取決めは、信用供与による契約締結誘引行為に該当するので、許されません。

2.さて、宅建業者は、勧誘の場面では、できるだけはやく取引を成立させたいと考えがちです。しかし、宅地建物の売買は、貴重な財産を対象としており、多くの一般消費者にとって、一生に一回しか行うことのない取引です。宅建業者は、免許を受けてこのように重要な取引に関与することができる立場にありますから、安易に取引の成立を急がせることがあってはなりません。

 例えば、金銭を用意せず単に下見のつもりで訪れた顧客に対し、購入意思が不確実であるにもかかわらず、手付金を貸し付けたり、手付金を立て替えたりして契約を締結させることは、宅建業者としては、厳に慎まなければならない行為です。

 そのような観点から、法は、手付けについて、宅建業者の基本的義務としての信義誠実の原則(宅建業法31条1項)を具現化するルールとして、貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為を禁じています(同法47条3号)。手付金という名称ではなく、予約金、預り金等の名称であっても、手付金の性格を有するものについては、法によって信用供与が禁じられます。

3 買主が手付金について、その一部しか支払わなかったため、売主(宅建業者)が手付金の不払を理由として売買契約を解除し、買主に手付残金額の支払を請求したケースがあります(大阪高裁昭和58年11月30日判決)。裁判所は、次のとおり、手付契約の要物性(金銭の実際の授受が契約成立の要件であること)から、請求を否定しました。

 『売主と買主の間において、売買代金の約10分の1とされた手付総額金500万円を、本件売買契約における解除権留保の対価とすることの合意がなされたと認められ、これが当事者の意思に合致するものというべきであるが、手付契約が金銭等の交付により成立する要物契約であることを考慮すると、昭和57年5月25日、本件売買契約が締結され、これに従たる総額500万円とする手付けに関する合意がなされ、買主から金額100万円の小切手が売主に交付されているけれども、総額500万円についての手付契約は未だ成立するに至らず、むしろ、同月29日までに全額を交付する旨の手付けの予約がなされたにとどまるものと解するのが相当である。
そうすると、売主の買主に対する金400万円の請求については、手付総額500万円につき手付契約がそもそも成立していないのであるから、その前提を欠くというべきであり、したがつて、交付のない手付金の没収ないし支払請求をする根拠がないことに帰着する。売主は、手付の予約でなくその成立があるとし、手付金の支払を分割したにすぎないというけれども、手付の要物契約性を無視するものであつて採用することができない。』

4.宅建業法47条3号の禁止する「信用の供与」には、手付金を貸したり、立て替えたりする場合だけではなく、手付金を数度に分けて受領する場合も含まれます。手付金を分割払とすることも、手付金に関して信用を供与するものとされるわけで、禁止されます。この判決の事案では、売買契約において手付けの分割払の約定がなされていますから、売主が宅建業者であれば、宅建業法に違反することになります。

5.平成23年8月には、規則が改正され、契約勧誘の局面における禁止事項として次の事項が追加になっています。

①勧誘に先立って宅建業者の商号又は名称及び勧誘を行う者の氏名並びに契約の締結について勧誘をする目的である旨を告げずに、勧誘を行うこと(宅建業法施行規則16条の12第1号ハ)

②相手方が契約を締結しない旨の意思(勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む)を表示したにもかかわらず勧誘を継続すること(同号ニ)

③迷惑を覚えさせるような時間に電話し、又は訪問すること(同号ホ)

④深夜の勧誘により相手方を困惑させること(同号ヘ)

6.宅建業者が手付貸与禁止や深夜勧誘禁止などの契約勧誘における規制に違反すると、指示処分・業務停止処分の対象となり、情状が特に重いときは、免許の取り消し処分を受けることもあります(宅建業法65条1項・3項・2項2号・4項2号・66条1項9号)。

 宅建業者にとって、勧誘の場面における法令遵守は信頼の礎であることを、再確認していただきたいと思います。

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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