法律相談

月刊不動産2013年10月号掲載

成年後見

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

私の母親は高齢となり、認知症のため、物事を判断する能力をほとんど失っています。母親の所有する不動産を売却して、生活費に充てる必要に迫られていますが、どのようにして不動産を売却すればよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 回答

    家庭裁判所に申立てを行って、成年後見開始の審判を受け、成年後見人を選任してもらえば、家庭裁判所によって選任された成年後見人が、お母様の代理人として不動産を売却することができます。

    2. 法定後見

     認知症などによって物事を判断する能力(事理弁識能力)が十分でない方について、本人保護を目的として、裁判所が画一的な基準によって、事理弁識能力が低下していることを認定し、定型的に法律行為に制限を加える制度が設けられています。これが法定後見の制度です。

     法定後見の制度には、①成年後見、②保佐、③補助の3つの種類があります。

    3. 成年後見

     成年後見の制度は、事理弁識能力が失われた場合の制度です。家庭裁判所が審判を行い(民法7条・838 条2号)、成年後見人を選任します(同法8条・843 条1項)。

     成年後見人には、包括的に本人の財産を処分する権限が与えられますから(民法859 条1項)、成年後見人は、本人の不動産について、自らの判断によって売却することができます。

     成年後見人は、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態および生活の状況に配慮しながらその事務を行わなければなりません(同法858 条)。成年後見の事務の中でも、住環境の整備は重要です。そして、住環境の変化は、本人の精神状況に大きな影響を与えるため、居住用不動産を売却する場合には、特に本人保護への配慮が必要です。
    そこで、成年後見人が本人の居住用不動産を売却するときには、家庭裁判所の許可を要するものとされています(同法859 条の3)。成年後見人が、家庭裁判所の許可を得ないで本人の居住用不動産を売却した場合、売買契約は無効です。

    4. 保佐・補助

    ①保佐 事理弁識能力が著しく不十分な場合の制度です。精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者について、家庭裁判所が審判を行い(同法11 条・876 条)、保佐人を選任します(同法12 条・876条の2 第1項)。保佐が開始すると、不動産売買などの重要な行為については、保佐人の同意が必要になります(同法13 条1項)。審判によって、保佐人に代理権が付与される場合もあります(同法876 条の4第1項)

    ②補助 事理弁識能力が不十分な場合の制度です。家庭裁判所が審判を行い(同法15 条1項・876 条の6)、補助人を選任します(同法16 条・876 条の7)。認知症の程度が軽微であって後見や保佐の審判までの必要はないものの、本人自らが財産管理について他人の助けを必要とする場面で利用されることが想定されています。
    事理弁識能力が著しく劣っているわけではありませんから、補助開始の審判に際しては、本人の同意が必要です。補助の審判に際しては、申立てによって、補助人に、特定の行為についての同意権や代理権が与えられます(同法17 条1項・876 条の9第1項)。

    5. 登記

     法定後見については、後見等に関する登記がなされます(後見登記法4条・5条)。高齢者等と取引をしようとするときには、法務局に申請すれば、登記事項証明書の交付を受けることができますから(同法10条1項)、審判がなされていることは、登記事項証明書によって、これを知ることができます。
    登記がなされていない場合には、「登記されていないことの証明書」の交付を受けることができます。証明書の申請をすることができるのは、本人、その配偶者及び四親等内の親族等ですが、代理人による申請も可能ですから、宅建業者が委任を受けて証明書を取得することもできます。

     当事者が高齢者であって、判断能力低下の可能性がある場合、取引の相手方になったり、仲介を担当するときには、法務局で後見等に関する登記を調べ、登記がなされていれば登記事項証明書を取得し、登記がなされていなければ「登記されていないことの証明書」の交付を受けておく必要があります。

    6. まとめ

     わが国における65 歳以上の高齢者の人数は3,186 万人(総人口の約25.0%)であり、そのうち認知症の方は推計15%、約465 万人に及んでいます。さらに認知症の予備軍というべき軽度認知障害(MCI)の方も、約400 万人に及んでいるとのことです。宅建業者は、高齢者との取引に関して、これまで以上に十分な知識を備えておく必要があります。

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