賃貸相談

月刊不動産2005年1月号掲載

店舗賃貸借契約の終了と造作の買取請求

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

ビルの地下の飲食店舗用の賃室を和食店に賃貸したところ、契約終了時になって、賃借人が設置した畳敷の客席設備を造作として時価で買い取るように請求されています。買取義務はあるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.借地借家法の定める造作買取請求法

     借地借家法33条(旧借家法5条)は、「建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。」と定めています。したがって、借家契約が終了した場合には、借家人は、一定の要件を満たす造作については賃貸人に対して買取請求ができるわけです。
     それでは、賃貸人はどのような場合に買い取る義務があるかというと、①対象が造作であること、②その造作が賃貸人の同意を得て付加したものであること、③賃貸借が終了すること、という3つの要件が必要とされています。

    2.「造作」とは何か

     借地借家法は、造作の例として畳や建具をあげていますが、これ以外にどのようなものが造作に当たるかということについては、一般には、「建物に付加されたもので、賃借人が所有し、かつ、建物の使用において客観的に便益を与えるもの」とされています。

    (1)建物に付加されたもの

     建物に付加されたものということは、「建物に付加されることによりその効用を発揮し、その建物から取り外されるとその造作としての価値を減少するようなもの」を指すことになります。したがって、飲食店舗内に設置されたテーブルやいす、什器類は造作ではないことになります。

    (2)賃借人の所有するもの

     造作買取請求権の対象となるためには、そのものを賃借人が所有していることが要件となります。したがって、賃借人が建物に付加させたものであっても、建物に符合し、建物と一体となってしまったものは建物所有者の所有物となっていますから、造作買取請求権の対象となりません。

    (3)建物の使用に客観的に便益を与えるもの

     借地借家法では、賃借人が賃貸人の同意を得て付加させたものはすべて賃貸人は買い取る必要があるとは定めていません。その中でも、「建物の使用に客観的に便益を与えるもの」だけが買取請求権の対象とされているのです。逆に、いくら賃貸人の同意を得て付加したもので賃借人が所有するものであっても、「賃借人がその建物を特殊な目的に使用するため特に付加した設備は造作には含まれない。」と判断されています(最高裁昭和29年3月11日判決)。
     したがって、居住用の借家において、たとえ賃貸人から店舗営業の許可を特別に得たとしても、「特定の営業にしか使用できないようなもの」は、やはり、建物の使用に客観的に便益を与えるものではないと考えられることになります。和食店舗用の畳敷の客席設備については、建物の使用に客観的に便益を与えるものではないとして、買取請求の対象となる造作には該当しないとした判例がありますので参考にしてください。

    3.造作買取請求権の放棄の特約の有効性

     なお、造作買取請求権は賃貸人にとっては煩わしい等の理由から、賃貸借契約において、「借家人は造作買取請求権を放棄する。」という特約を設けているものが少なくありません。
     旧借家法においては、造作買取請求権の規定は強行規定とされ、当事者間でこれと異なる特約をしても無効であるとされていました。したがって、旧借家法の適用のある契約(平成4年8月1日前に締結した借家契約)の場合には、「借家人は造作買取請求権を放棄する。」という特約を設けていても無効とされ、賃貸人は上記の「造作」の要件が満たされている限り、買い取る義務がありました。
     ところが、平成4年8月1日施行の借地借家法においては、造作買取請求権は任意規定とされ、借地借家法の定めと異なる内容の特約も有効とされることになっています。したがって、借地借家法の適用のある契約(平成4年8月1日以降に新規にした建物賃貸借契約)では、賃貸借契約で造作買取請求権を放棄する旨の特約があれば、借家人は造作買取請求権を行使することができません。

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