税務相談
月刊不動産2013年11月号掲載
居住しなくなった自宅を相続後に譲渡した場合の3,000万円控除の取扱い
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
個人が居住しなくなった自宅を譲渡した場合の3,000万円控除の取扱いについて教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除
(1)3,000万円控除の概要
個人が自らの居住用財産を売却した場合は、長期譲渡所得の金額または短期譲渡所得の金額の計算上、最高3,000万円が控除できる特例が設けられています。これを「居住用財産の3,000万円特別控除(以下「3,000万円控除」といいます。)」といいます。
(2)居住用財産の範囲
3,000万円控除の適用対象となる居住用財産には、次のようなものがあります。
①現に自分が居住している家屋
②居住用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した家屋
③①または②の家屋とその敷地
④①の家屋が災害により滅失した場合における、その敷地
2.かつて居住した自宅家屋を居住しなくなった後に相続で取得し、その後に譲渡した場合の3,000万円控除の適用
1.(2)②の家屋の譲渡について、その譲渡する個人が、かつて「所有者として」その家屋に居住していたことが要件とされるかは、法令・通達において明確ではありません。このため、個人がかつて居住していた家屋を居住しなくなってから相続により取得し、その後に譲渡したような場合、1.(2)②の家屋の譲渡に該当するものとして3,000万円控除の適用を受けられるのかという疑問が生じます。以下、この点について争われた裁判の平成元年3月28日最高裁判決(上告棄却により納税者敗訴)の概要を紹介し、所有者として譲渡家屋に居住したことが3,000万円控除の適用要件とされるか否かについて考えてみます。
(1)裁判の概要
個人甲は、夫所有の家屋に夫婦で居住していましたが、昭和53年4月頃にその家屋から夫と共に転居し、居住しなくなりました(その家屋は同族会社に賃貸)。その後、昭和54年5月に夫が死亡したことから、甲は相続によりその家屋の所有権を取得し、昭和55年12月にその家屋を他に譲渡しました。裁判では、その家屋の譲渡が前述1.(2)②の家屋の譲渡に該当し、3,000万円控除の適用を受けられるか否かが争点となりました。
(2)最高裁判決の要旨
判決では、3,000万円控除を、個人が自ら居住の用に供している家屋及びその敷地等を譲渡するような場合は、通常これに代わる居住用財産を取得するなど、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、担税力も高くない例が多いこと等を考慮して設けられた特例であるとし、この趣旨は現に居住の用に供している家屋の譲渡(前述1.(2)①)と、居住の用に供されなくなった家屋の譲渡(前述1.(2)②)とで、何ら変わるものではないと判断しています。
そして1.(2)②の規定は、居住用財産を処分しようとする場合、譲渡時まで引き続いて当該家屋に居住することが困難な場合が少なくないことから、その家屋を居住の用に供しなくなった後の一定期間内の譲渡についても、依然、社会通念上は1.(2)①と同じ“居住用財産の譲渡”といい得るとみて、3,000万円控除を認めているのだと解釈しています。上記の解釈を踏まえ判決では、1.(2)②の居住の用に供されなくなった家屋の譲渡については、1.(2)①の現に居住の用に供している家屋の譲渡と統一的に理解すべきであり、その個人がその家屋を譲渡所得の帰属者、すなわち所有者として居住の用に供していたことが特別控除を認めるための要件とみるべきと判断。
かつてその家屋を居住の用に供していた個人が、それを居住の用に供しなくなった後にその所有権を取得した場合は、たとえその家屋の所有権を相続で取得しても、居住しなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にその家屋を譲渡した場合であっても、その個人自身が所有者としてその家屋を居住の用に供していたことがない以上、3,000万円控除の適用は認められないと結論づけています。(3)結論
前述(2)の判決を踏まえて、個人がかつて居住した家屋を居住しなくなった後に相続で取得し、その後に譲渡した場合は、3,000万円控除は不適用とするのが実務の取扱いとされています。