賃貸相談

月刊不動産2010年1月号掲載

定期借家期間満了後の終了通知

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

定期借家建物を賃貸しています。定期借家期間の満了までに契約終了の通知をしないまま契約期間が満了してしまい、既に満了から3か月が経過しています。それでも契約を終了させることができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.定期建物賃貸借契約と契約の終了

     借地借家法38条に定める定期建物賃貸借契約を公正証書による等、書面によって締結した場合は、契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了するものと定められています。

     したがって、定期建物賃貸借契約自体は、契約期間の満了によって当然に終了していることになります。ただし、借地借家法38条4項は、契約期間が1年以上の定期建物賃貸借契約の場合には、建物の賃貸人は期間満了の1年前から6か月前までの間(この期間を「通知期間」といいます)に、賃借人に対し、期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を賃借人に対抗することができないと定めています。

     つまり、定期建物賃貸借契約ですから、期間の満了により、通知などしなくとも、法律上当然に定期建物賃貸借契約は終了するのですが、期間満了の1年前から6か月前までの通知期間内に終了する旨を通知していない場合には、定期建物賃貸借契約が終了したという事実を「対抗」できないとされています。「対抗できない」という用語は、分かりやすくいうと「主張できない」という意味に理解してもよいと思います。客観的には、契約期間の満了により定期建物賃貸借契約は終了しているのですが、終了したことを賃借人に主張できないというわけです。契約が終了したことを主張できないということは、契約期間満了後も賃借人に対して明渡しを求めることができないということになります。

    2.契約終了の通知をしなかった場合の法律関係

     定期建物賃貸借契約の場合は、上記の通知期間内に契約終了の通知をすることが大変重要になりますが、人間のすることですから、通知期 間内に通知を忘れることもあり得ないとはいえません。この場合には借地借家法38条4項ただし書では、通知期間内に契約終了の通知をしなかった場合でも、「建物の賃貸人が通知期間の経過後、建物の賃借人にその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6か月を経過した後は、この限りではない」と定められています。要するに、通知期間内に通知を忘れたとしても、その後に通知をすれば、その通知が賃借人に到達した日から6か月を経過すれば、契約の終了を賃借人に主張できるようになるというわけです。

     しかし、御質問のケースは、ただ単に1年前から6か月前までの間の通知をしなかったというだけではなく、そもそも定期建物賃貸借契約の期間満了日までに通知をしておらず、期間満了から既に3か月が経過しており、賃借人はそのまま建物の使用収益を継続しているという事案です。

     このような場合は、定期建物賃貸借契約は期間の満了により法律上当然に終了しているのだから、定期建物賃貸借契約終了後に、賃借人は建物の使用収益を継続し、従前と同様の賃料を支払っているのだから、新たな賃貸借契約が成立しているのではないか、そうだとすれば新たな賃貸借契約は公正証書による等書面でなされていないのだから、既に普通借家契約が成立しているのではないか、ということが問題点とされてきました。

    3.期間満了後の終了通知に対する裁判例

     定期建物賃貸借契約の期間が満了した後も、賃借人がそのまま使用収益を継続し、従前の賃料額と同様の額が支払われているという場合に、普通建物賃貸借契約が成立するか否かについては、これまで見解が分かれており、裁判例もあまり見当たりませんでしたが、平成21年3月19日にこの点に関する東京地裁の判決が出されました。

     判決は、法文上も実体上も、本来、終了通知については期間満了前に行われていることを予定しているものであると述べていますが、他方で、通知期間経過後の通知については、いつまでに行わなければならないかについての限定がなされていないこと、法が終了通知を義務付けた趣旨は、賃借人に注意を喚起し、代替物件を探すためなどに必要な期間を確保することにあると解されること等から、期間満了後に通知した場合であっても、通知の日から6か月を経過すれば契約の終了を賃借人に対抗できるとの判断を示しました。実務上の判断として参考になるものと思われます。

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