法律相談

月刊不動産2011年5月号掲載

宅建業法上の秘密を守る義務

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

当社が所有者Aから管理を受託している賃貸住宅について、Aの配偶者Bの代理人弁護士から申出があったということで、弁護士法に基づく弁護士会照会に基づき、管理委託契約の写しの送付を求められました。この求めに応じて送付することは、宅建業法に違反しないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.管理委託契約の写しを送付することは、宅建業法に違反しません。

    2.さて宅建業者には「秘密を守る義務」があり、正当な理由がある場合でなければ、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはなりません。宅建業を営まなくなった後であっても同様です(宅建業法45
    条)。

    3.実際に宅建業者の「秘密を守る義務」が問題となったケースとして、東京地裁平成22年8月10日判決があります。区分所有建物の所有者Xが宅建業者Yと賃貸住宅業務委託契約を締結していたところ、Xと配偶者Zとの間の婚姻費用分担調停事件に関連し、Zの代理人弁護士が申し出た弁護士法23条の2に基づく照会に対し、Yが契約書の写しを送付する方法により回答をしたことが、「秘密を守る義務」に違反するものかどうかが争われました。裁判所は次のとおり述べて、Yには「秘密を守る義務」の違反はないと判断しました。

    4.『Yの行った報告が違法であるか否かについては、弁護士法23条の2に基づく本件照会に対し回答することが、宅地建物取引業法45条の「正当な理由」に該当するか否かの観点から検討することになる。

     弁護士法23条の2が規定する照会制度(23条照会)については、照会を受けた公務所又は公私の団体は、当該照会により報告を求められた事項について、当該照会をした弁護士会に対して報告すべき法的義務を負うと解するのが相当である。

     もっとも、23条照会に応じて報告すべき義務も、その性質上絶対無制約のものと解すべきではないから、23条照会に対する報告が上記「正当な理由」あるいは「法令に基づく場合」に該当し、違法性を欠くと認められるためには、当該照会について、23条照会の制度趣旨及び目的に即した必要性と合理性が認められることを要すると解するべきである。

     そこで検討するに、XとZとの間の本件調停事件は、夫婦間の婚姻費用の分担を定めることを目的とするものであり、X及びZの双方がそれぞれ得ている収入や収入を得るために支出する費用等を把握することが、調停の前提となるから、本件建物からXが賃料収入を得ているか否かは、本件調停事件の重要な争点のひとつであったことは明らかである。このことは、Zが開業医として高額な収入を得ていたとしても、変わるところがないというべきである。
    そして、Xが、本件調停事件に先立つ離婚調停の段階から本件建物からの賃貸収入はないとの説明をしていた状況において、Z代理人であるM弁護士が、本件建物からのXの賃料収入の有無を明確にするために資料の収集を行うのは代理人として必要な行為であり、そのためには、本件建物の賃貸住宅業務の委任を受けていたYに対し、23条照会の制度を利用して報告を受ける以外には適切な方法はないと思われる。

     そして、相当の期間継続して夫婦間の婚姻費用の分担を定める資料とするには、Xの得ている賃料収入の状況やそれに伴う支出の状況を賃貸期間等を含め、ある程度詳細に把握することも合理性を否定できず、M弁護士が、本件照会の照会事項として、XとYの業務委託契約及びXが賃貸人となっている賃貸借契約について、契約日や賃料等の報告を求めるとともに、契約書の写しの送付を求めたことには、合理性があると認められる。

     以上によれば、本件照会には、これを行うべき必要性と合理性が認められるから、本件照会において明示的に照会事項とされている本件各契約書の写しを送付する方法によりYが行った本件報告は違法性を欠くというべきである。』

    5.「秘密を守る義務」については、個人情報保護法にも、個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない(同法16条1項)等と定められています。宅建業者は、個人情報保護法も遵守しなければなりません。

    6.上記東京地裁平成22年8月10日判決では、違法性は否定されましたが、宅建業者にとって、「秘密を守る義務」や個人情報の取扱いに留意することは、極めて重要です。宅建業者は、他人の一身上の秘密や経済的実態について知る機会が非常に多い業務です。業務を適切に遂行するために、それらの開示を受けたとしても、高度の緊急感をもって、取り扱わなければなりません。業務上依頼者の秘密や個人情報の扱いに疑問を感じたときには、専門家に相談することをおすすめいたします。

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