法律相談

月刊不動産2003年12月号掲載

媒介業務の報酬

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

当社が専任媒介を受け、依頼者から買付証明を受け取っていた土地について、依頼者が直接取引をしていたことが判明しました。専任媒介契約には、当社を排除して直接取引をした場合には相当額の報酬を請求できると定めてあります。当社は報酬を請求できるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  相当額の報酬を請求することができます。しかし必ずしも業法に定めた報酬の上限金額を請求できるわけではありません。報酬の額は、媒介業者の寄与度に応じて定まります。
     媒介とは、取引当事者の間に立って、物件を紹介して案内をしたり、取引条件の交渉をするなど、契約成立(成約)のために尽力する行為をいいます。民法では媒介に関し直接に定めた規定はなく、事実行為の事務処理を目的とする準委任の性格をもつとされています(民法643条、656条)。
     媒介業者が報酬を請求するためには、
    ①依頼者と業者の媒介契約
    ②媒介契約に基づく業者の媒介行為
    ③媒介行為の結果による依頼者と相手方との契約の成立
    の3つが必要とされます。この3要件が報酬請求のための3点セットです。請求できる報酬額は、業法に定められた範囲の限度内で、媒介契約において定めがあるときはその定めに従った金額、媒介契約において定めがないときは相当の金額です。
     ところで依頼者が媒介業者を排除し、相手方と直接に契約を締結する直接取引を行った場合には、媒介業者はクロージングに直接には関与していません。そのため報酬請求権があるのかどうかが問題となります。
     しかし民法130条には「条件の成就に因りて不利益を受くべき当事者が故意に其条件の成就を妨げたるときは相手方は其条件を成就したるものと看做すことを得」と定められています。最高裁は、依頼者が媒介業者を故意に排除して契約を成立させたときには、媒介業者は依頼者が条件の成就を妨げたものとして、同条により媒介契約に基づく報酬を請求することができると判断しています(最高裁昭和45年10月22日判決)。
     直接取引の行われた場合に業者が請求できる報酬額は、業者が売買の成立にどれだけ貢献したかという寄与度によって定まります。業者の折り込みチラシをみて仲介を依頼したけれども売買代金が希望の金額まで下がらなかったため、業者を排斥して直接に取引交渉
    を行い、3億3000万円で売買契約を締結してしまった事案について、業者からの1000万円の媒介手数料の請求に対し、裁判所は250万円の請求を認めました(東京地裁昭和60年8月6日)。
     また、媒介契約の中に媒介業者を排除した場合の扱いについての約定があれば、その約定に従うことになります。
     国土交通省が定めた標準媒介契約約款には、「契約の有効期間内又は有効期間の満了後2年以内に依頼者が媒介業者の紹介によって知った相手方と媒介業者を排除して目的物件の売買又は交換の契約を締結したときは、媒介業者は、依頼者に対して、契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求することができる」と定められています。
     この条項と同様の特約がなされていたケースにおいて、媒介業者が相手方を紹介し買付証明を取得していたにもかかわらず、依頼者が媒介業者を排除して売買代金を8億8000万円として直接の取引をした事案について、裁判所は媒介業者の寄与度を2割とし、当初約束されていた報酬のうち2割の請求を認めました(東京地裁平成13年6月29日判決)。
     売買、交換の媒介のときの媒介業者の報酬額の上限については、通常取引額の3%プラス6万円といわれていますが、これは取引額200万円までの部分5%、取引額200万円を超え400万円までの部分4%、取引額400万円を超える部分3%としている建設省(現国土交通省)を言い換えた基準です。
     平成15年7月に改定された国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方について」の中で、『媒介業務に対する報酬の額は、告示(昭和45年建設省告示1552号)で定める限度額の範囲内でなければならないが、この場合、報酬の限度額を当然に請求できるものではなく、具体的な報酬額については、宅地建物取引業者が行おうとする媒介業務の内容等を考慮して、依頼者と協議して決める事項である』旨の確認がなされていることにも注意が必要です。

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