賃貸相談
月刊不動産2009年3月号掲載
契約解除後の明渡し手続
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
賃料滞納を理由に賃貸借契約を解除したのですが、借家人は一向に出ていく様子がありません。今後はどのような手続を取ればよいのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.建物賃貸借契約解除後の明渡し
まず、賃貸借契約解除後の法律関係がどのようになるかですが、賃料滞納を理由に、賃貸借契約を有効に解除したのであれば、相手方が賃借建物を使用収益する権利(借家権)は終了しています。
したがって、契約解除後は相手方は建物を占有使用する権利を有しないのに建物を占有使用していることになりますので、その時点では、相手方は借家人ではなく、建物の不法占拠者ということになります。
建物の不法占拠者ですから、賃貸人としては、権利関係を説明し、相手方に建物を明け渡すよう説得に努めることになります。しかし、いかに権利関係を説明し、明け渡すよう説得しても、これに応じない占有者がいることも事実です。この場合には、法的手続をとって明渡しを求めるほかはありません。
2.建物明渡請求訴訟の提起
(1) 訴えを提起する裁判所
賃料滞納を理由に賃貸借契約を解除し、相手方に明渡しを求めるには、賃貸人を原告、相手方を被告として、被告に対して建物の明渡しを求める訴えを提起することになります。訴えを提起する裁判所は、当該賃貸建物の所在地を管轄する裁判所か、相手方の住所地を管轄する裁判所とするのが一般的です。
(2) 訴状の準備
訴えを提起するには、書面を裁判所に提出して行います。この書面を「訴状」といいますが、訴状には、①相手方に対して、どのような内容の判決を求めるのか(これを「請求の趣旨」といいます)、②そのような判決を求める法的な原因事実は何か(これを「請求の原因」といいます)を簡潔に記載することが必要です。
実際には、賃貸借契約の解除が有効になされたことを裏付ける事実を記載します。賃料滞納を理由とする賃貸借契約の解除が有効とされる要件は、①信頼関係を破壊するに足りる賃料滞納の事実と、②賃貸人が賃借人に対して相当の期間を定めて催告したこと、③それにもかかわらず、相当期間内に賃借人が滞納賃料の支払をしなかったこと、です。
①の信頼関係を破壊するに足りる賃料滞納といえるためには、一般的には3か月分以上の賃料滞納があることが必要です。
②の催告における相当期間とは、一般的な建物賃貸借契約の場合、おおむね1週間程度と考えれば問題はないと思われます。
(3) 裁判所における口頭弁論手続
適法な訴状が裁判所に提出されれば、裁判所は第1回の口頭弁論期日を決定して、その日程を原告と被告の双方に通知し、当事者を裁判所に呼び出します。
第1回の口頭弁論期日に、被告は訴状に書かれた請求を認めるか否かの答弁(請求の趣旨に対する答弁)と、請求原因として訴状に記載された内容が事実であるか否かの認否(請求の原因に対する認否)を記載した答弁書を提出し、裁判所が双方の言い分を聞き、提出された証拠を検討して、解除が有効か否かについて判断し、解除が有効であると考えられる場合には、被告に建物の明渡しを命じるとともに未払賃料の支払を命じる判決が言い渡されることになります。
被告が第1回口頭弁論期日に欠席した場合には、訴状に記載された内容が事実であると自白したものとみなされ、一般的には第1回口頭弁論期日から2週間程度で、被告に建物の明渡しと未払賃料の支払いを命じる判決が言い渡されています。
3.強制執行手続
判決の言渡し後も、被告が賃貸建物に居座る場合もあり得ます。この場合には、強制執行を求めるしかありません。具体的には判決に基づいて裁判所の執行官に対し、建物明渡しの強制執行の申立てをします。
申立てから1週間~10日前後で執行官が賃貸建物の被告宅を訪問し、強制執行の申立てがなされていること、1か月以内の具体的な日を強制執行の実施日と定め、これを被告に告示します。その日までに被告が退去していない場合には、執行官の権限で室内にある家財道具等一式を搬出し、貸室の占有を回復する措置を講じます。搬出された家財道具等は別途保管し、被告が引取りに来た際に引き渡せるようにしておきます。