法律相談

月刊不動産2024年8月号掲載

外国人との不動産取引に関する基礎知識 〜不動産事業者のための国際対応実務マニュアル〜

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

 これまで、外国人が居住するための賃貸物件の仲介や管理を行ってきましたが、今般初めて、外国人が当事者となる売買を仲介することになりました。外国人が売主や買主になる売買について、わかりやすく説明している資料はないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  国土交通省が作成し、公表している「不動産事業者のための国際対応実務マニュアル」(平成29年8月)があります(図表1)。外国人との取引に関与するにあたっての基礎知識が、わかりやすくまとめられています。

    図表1 「不動産事業者のための 国際対応実務マニュアル」

  • マニュアル作成の背景

     わが国は国際化し、ボーダレス社会への進行はますます加速しています。これにともない、不動産業者には、単に日本人同士の円滑な取引への協力だけでなく、外国人の顧客に対する適切な対応も社会から求められます。

     しかし、一般の不動産業者にとって、国際対応の知識や経験は多くありません。国際対応に慣れていない不動産業者において、手早く国際対応を行うための全体像の把握と基礎知識が必要です。そのような観点からみて、有益な資料が、国土交通省が平成29年8月に公表した「不動産事業者のための国際対応実務マニュアル」(以下「マニュアル」)です。

  • マニュアルの内容

     1.構成

     マニュアルは、6つの節から構成されています。1節でマニュアル作成の趣旨を説明し、2節で売買取引業務、3 節で外国人所有不動産の管理、4節で外国人による入居についてを解説、5節には外国人との取引に役立つ資料集、6節には不動産用語・表現の参考英訳集がまとめられています。

     

    2. 売買取引業務

     2節では、取引時における確認の説明をしたうえで、不動産売買の手順、媒介契約の締結、重要事項説明および売買契約の締結、売買代金の支払い・物件の引渡しについて記述されています。
     通常は日本人同士の取引を扱っている宅建業者が、国際対応が必要な売買に関与する際には、特に税金、外国為替、登記の問題について慎重に進めなければなりません。そのため、2節では、不動産の売買に係る課税の概要と納税管理人の選定の必要性、外国為替および外国貿易法(外為法)が定める事後届出、登記に係る手続きについて、比較的くわしく解説がなされています。いずれも実際の取引にあたっては、税理士や司法書士などの専門家に関与してもらう必要がありますが、このマニュアルによって概要を知ることができます。

     

    3. 外国人所有不動産の管理

     3節では、外国人が所有する不動産の管理に係る業務を取り上げています。このうち、外国人所有者向け賃貸管理業務については、取引における業務の各プロセスにあたっての留意点を、また外国人所有者向け分譲マンション管理業務に関しては、管理費・修繕積立金の徴収対応、管理組合対応、防災対応等にあたっての留意点などが、それぞれ説明されています。

     

    4. 外国人の賃貸物件への入居

     4節では、外国人が賃貸物件に入居するにあたっての留意点が示されています。
     外国人による不動産の賃借のプロセスも例示されており、これを顧客に示しながら、入居に至るまでの一連の流れについて、事前に理解を得ておくことができるようになっています。
     また、不動産の賃借を希望する外国人に対する賃貸事業にあたっての留意点が記載された資料として、「あんしん賃貸支援事業と外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」(国土交通省)があり、そこには日本で賃貸住宅を探す外国人との応対方法や留意事項に加え、日本語、英語、韓国語、中国語、スペイン語、ポルトガル語の6カ国語で作成した「入居申込書」「重要事項説明書」「賃貸住宅標準契約書」「定期賃貸住宅標準契約書」等の見本が掲載されています。マニュアルでは、そこに記載された留意事項について主なものが抜粋されています。

     

    5. 参考資料

     5節には不動産事業者の事業活動に資することを目的として、政府および業界団体が作成した資料集が紹介されています。
     6節は不動産用語・表現の参考英訳集です。そのうちの一部を取り上げて、図表にしました(図表2)。宅建業者にも、英語力が必要な時代になっています。

    図表2 不動産用語・表現の参考英訳集の例

     

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