法律相談
月刊不動産2004年5月号掲載
土壌汚染による瑕疵担保責任
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
マンションの建設用地を購入しましたが、引渡し後、地中にコンクリート基礎、オイルタンク、オイルによる土壌汚染のあることが判明したため、工事を停止し、埋設物を撤去して土壌を廃棄せざるを得なくなり、多大の損害を被りました。これらの損害を売主に対して請求できるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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売主に対し、瑕疵担保責任として、土地に瑕疵がないと信じたことによって生じた損害の賠償を請求することができます。もし契約の目的を達することができなければ、売買契約を解除することもできます。ただし瑕疵担保責任を免除する特約のある場合には、瑕疵担保責任追求をすることはできません。
民法には、売買契約の目的物に瑕疵があり、買主がその瑕疵を知らないときには、売主は買主の損害を賠償しなければならず、瑕疵のために契約の目的を達することができなければ、契約の解除をすることもできると定められています(民法570条、566条1項)。この責任が瑕疵担保責任です。
瑕疵とは欠陥という意味です。欠陥のある物を買った場合であっても売買代金は支払わなくてはいけません。そのため、売主と買主の衡平を図るべく欠陥による損害を売主負担とし、また欠陥がなければ契約をしなかったであろうケースでは、売買契約の解除ができるものとしているわけです。この責任は売主に過失があるかどうかを問わない無過失責任です。
売買の目的物について、その物が通常有するべき性質、性能を備えていない場合に瑕疵があるとされます。例えば、建物を売買した際に、建物に白アリがついていたというケースが代表的な目的物の瑕疵です。瑕疵には、物理的な瑕疵だけではなく、心理的な瑕疵も含まれます。マンション室内で購入前に居住者が自殺していたというのが、心理的瑕疵の事例です。
さてマンションの建設用地を購入した際、地中にコンクリートやオイルタンクが埋まっていたり、あるいはオイルで土壌が汚染されている場合には、売買の対象たる土地がマンション用地として通常有するべき品質を備えていませんから、瑕疵があるといえます。
埋設物を撤去し、あるいは汚染を除去する対策を講ずるための費用は買主が被った損害となります。もし埋設物や土壌汚染により契約の目的を達成することができなければ、契約を解除することもできます。
ご質問と同様の事案において、売主が、買主に対し、埋設物撤去、土壌廃棄、工事停止に伴う突貫工事などの費用を損害として請求したのに対し、裁判所は、障害物撤去と土壌廃棄の費用を賠償すべき損害と認めました。ただその一方では、瑕疵担保責任の損害賠償の範囲について、買主が目的物に瑕疵がないと信じたことによって生じた損害、すなわち信頼利益に限られるとして、工事停止に伴う費用については、損害として認めませんでした(東京地裁平成14年9月27日判決)。
ところで民法では瑕疵担保責任の規定は任意規定であり、瑕疵担保責任免除の特約も有効です。また売主が業者の場合には瑕疵担保責任免除の特約には制限がありますが(宅地建物取引業法40条)、業者間売買であれば、その制限の適用はありませんので(同法78条2項)、売主が業者でも買主がマンション業者の場合には瑕疵担保責任を免除する特約は有効になります。したがって、本問においても、売買契約に瑕疵担保責任を免除する特約が付されていると、買主は、売主に対して瑕疵担保責任を問うことができません。
のみならず、環境問題に対する社会的な関心が極めて高揚する中で、平成14年5月に土壌汚染対策法が成立し、平成15年2月から施行されています。この法律により、土壌の汚染状態が一定の基準に適合しない区域が指定され(土壌汚染対策法5条1項)、指定区域内の土地において、人の健康に係る被害が生じ又は生ずるおそれがあるものとして一定の基準に該当する土地があるときは、土地の所有者に対し、汚染の除去、当該汚染の拡散の防止その他必要な措置が命じられる場合もあります(同法7条1項)。
すなわち瑕疵担保責任を免除する約定で土地を購入し、汚染区域の指定を受けると、瑕疵担保責任は追求できず、しかも汚染の除去等の措置が命じられることにもなってしまいます。土地の購入に当たっては、土壌汚染について細心の注意が必要です。