法律相談

月刊不動産2013年8月号掲載

商人間売買における買主の検査通知義務

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

当社(宅建業者)は、売主(宅建業者)から土地と古家を買い受けました。引渡しの1年半後、新築建物を建築しようとしたところ、土地の中に大量の産業廃棄物が見つかり、処分費用がかかってしまいました。売主に処分費用を請求できるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 回答
     売主に対して土地の中にあった産業廃棄物の処分費用を請求することはできません。宅建業者間の売買は商人間取引であり、商法に基づき、買主には目的物の瑕疵に関する検査義務と適時の通知義務があります。

     速やかな目的物の検査と売主への通知を行っていない以上、損害賠償請求をすることができなくなっています。

    2. 商法による買主の検査通知義務の定め

     さて商取引では、迅速性が尊ばれます。商人は、商品について専門知識をもっていますから、売買の目的物を受け取り、検査可能になった以上はすぐに検査をしなければなりません。

     そこで商法は、「商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない」として、商人間売買における目的物の検査義務を定め(同法526条1項)、次いで「前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない」、
    「売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が6箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする」として、通知義務を定めています(同条2項)。
    検査あるいは通知を行わないと、買主は、損害賠償請求ができなくなるわけです。もっとも、検査通知義務に関する定めは、「売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合」には、適用されません(同条3項)。

     宅建業者は商人であり、不動産の売買についても商法の定めが適用になります。したがって、特約がない限り、買主には商法による検査通知義務があります。買主による目的物の検査通知義務は、土地建物の売買にも適用になります。

    3. 地中埋設物の瑕疵に関する事案

     地中埋設物の瑕疵に関して、買主の検査通知義務が問題になった事案として、東京地裁平成4年10月28日判決があります。裁判所は、まず瑕疵に該当するかどうかにつき、「宅地の売買において、地中に土以外の異物が存在する場合一般が、直ちに土地の瑕疵を構成するものでないことはいうまでもないが、その土地上に建物を建築するについて支障となる質・量の異物が地中に存在するために、その土地の外見から通常予測され得る地盤の整備・改良の程度を超える特別の異物除去工事等を必要とする場合には、宅地として通常有すべき性状を備えないものとして土地の瑕疵になるものと解すべきである。
    本件の場合、大量の材木片等の産業廃棄物、広い範囲にわたる厚さ約15 cmのコンクリート土間および最長約2mのコンクリート基礎10 個が地中に存在し、これらを除去するために相当の費用を要する特別の工事をしなければならなかったのであるから、これらの存在は土地の瑕疵にあたる」としました。

     そしてその上で、売主と買主がともに商人であるところ、産業廃棄物について、商法526条の目的物の検査、通知期間を経過しているとして、買主から売主への産業廃棄物の撤去費の損害賠償請求を否定し、売主が悪意であったと認定された土間コンクリート等の撤去費についてのみ損害賠償を肯定しました。

    4. 特約による排除

     商法526条の検査通知の義務の定めは、強行規定ではなく任意規定であり、法の定めと異なる特約も、有効です。商法の検査通知義務の規定の適用を受けない旨の特約が定められていれば、この制約を受けず、損害賠償請求をすることができるということになります。
    東京地裁23年1月20日判決では、土壌汚染について、その調査には費用と時間が掛かり、引渡後6か月以内に検査すべきことを義務付けることは買主に苛酷であることなどを理由として商法526条の定めを排除する特約を肯定しています。

    5. 民法改正における検討事項

     現在、買主の検査通知義務は、商法に定められているものであって、民法には定めがありません。しかしながら、実務的には問題になることが多い重要な規定です。そこで、平成25年3月11日に公表された「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(中間試案)では、義務の主体を商人に限らず事業者全般とした上で、買主の検査通知義務を、民法にとりこみ民法上の義務とする条項の創設が提案されています(中間試案第35-7)。

page top
閉じる