賃貸相談

月刊不動産2011年4月号掲載

区分所有建物の賃貸と借家権の範囲

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

区分所有ビルの一室を所有していますが、これを第三者に賃貸しました。テナントは、当社が貸室を使用していた際に利用していた駐車場についても借家権があると主張していますが、本当でしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 区分所有建物の賃貸と借家権の範囲

     区分所有建物には、専有部分である居室部分と、居室部分を利用するのに伴って使用されることのある駐車場や自転車置場、場合によってはトランクルーム等を備えているものがあります。

     区分所有建物の専有部分の所有者である区分所有者が、自己の所有する専有部分を第三者に賃貸した場合に、借家人が専有部分である貸室について借家権を有するのは当然ですが、これを超えて、区分所有者が使用していた駐車場やトランクルーム等も当然に借家人に借家権が発生するかということは、検討すべき問題点があります。

     なぜなら、賃貸借契約を締結した専有部分は区分所有者の所有物ですが、駐車場や自転車置場、トランクルーム等は賃貸人である区分所有者の所有物ではなく、区分所有建物の専有部分をそれぞれ所有する区分所有者全員が共有する共用施設だからです。共用施設は、共有持分を有する区分所有者であれば自由に使用できるというわけではなく、一般的には、共用施設を管理する管理組合や管理者と駐車場使用契約を締結した者のみが、一定の利用料を支払い、あらかじめ定められた使用規則等を遵守して使用することが認められているものにすぎません。

     そして、区分所有建物におけるこれらの共用部分に関する法律関係に関しては、「建物の区分所有等に関する法律」(いわゆる「区分所有法」)が適用されています。したがって、共用部分に関する法律関係がどのようなものであるかについては、まず区分所有法の規定の内容を確認することが必要です。

    2. 共用部分の利用に関する区分所有法の規定

     区分所有法は、共用部分等の使用に関する区分所有者相互の関係については、同法30条1項において、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と規定しています。

     つまり、区分所有建物における駐車場や自転車置場、トランクルーム等の共用部分を、区分所有者のうちの、誰が、どのような条件で使用することができるかといった区分所有者相互間の事項は、区分所有者等の自主性を尊重して、規約で定めることが許容されているのです。

     したがって、区分所有者が、区分所有建物における駐車場や自転車置場、トランクルーム等の共用部分をどのような条件で使用できる権利を有しているのかは、当該区分所有建物の管理規約によって確認することができます。賃貸人としては、まずは管理規約を確認して、各共用部分の施設の利用条件を確かめることが必要です。区分所有者が駐車場等につき、管理組合と賃貸借契約その他の使用許諾契約を締結している場合に、当然に賃借人もその利用が可能か否かは管理規約の内容によって異なります。

     区分所有者が、賃貸借契約を締結して利用権を有している駐車場等について、管理組合に無断で転貸できるかについては、当然ながら、転貸が許容されているか否かによることになります。もとより、無断転貸した場合であっても、信頼関係を破壊しない特段の事情があれば許容されるのではないか等の議論はあるとしても、無断で転貸することは、規約違反である等の問題が生じることにもなりかねませんので、この点を確認しておくことは不可欠です。

    3. 管理規約の賃借人に対する拘束力

     管理規約は、区分所有者相互間の利益を調整することを主な目的としているものであり、区分所有者がこれに拘束されることは当然ですが、賃借人は、管理規約の当事者ではなく、管理規約に拘束されないのではないかと考える方もあるかもしれません。しかし、区分所有法46条は、「①規約及び集会の決議は、区分所有者の特定承継人に対しても、その効力を生ずる。②占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。」と定められており、管理規約は、区分所有建物の賃借人にも拘束力を有することに注意する必要があります。

page top
閉じる