労務相談

月刊不動産2022年3月号掲載

副業・兼業への企業対応

野田 好伸(特定社会保険労務士)(社会保険労務士法人 大野事務所パートナー社員)


Q

 正社員より、週1回6時間ほど、休日にアルバイトをしてもよいものか相談を受けました。内容としては、知人の飲食店で配膳業務の手伝いをするとのことです。就業規則では副業・兼業を禁止していますが、会社が認めないとしても問題ないのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     原則として休日や時間外の時間の使い方は労働者の自由とされていますので、副業・兼業を一律に禁止することはできません。ただし、競業避止、名誉・信用失墜など一定の事由に該当した場合には、制限・禁止することができますので、企業は申請・届出制により内容を確認するとよいでしょう。

  • 副業・兼業の現状

     コロナ禍での休業等により、一時的に他社で就業することを認める企業もありましたが、これにかかわらず副業・兼業を希望する者は年々増加しています。理由としては、収入を増やしたい、自分が活躍できる場を広げたい、スキルアップを図りたいなどさまざまです。このような状況を受けて、ガイドラインが改正されるなど、副業・兼業に対応した法整備も進んでいます。

  • 制限・禁止の条件

     副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、以下に該当する場合としています。

    ① 労務提供上の支障がある場合
    ② 業務上の秘密が漏洩する場合
    ③ 競業により自社の利益が害される場合
    ④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

     これらに該当する場合には、副業・兼業を制限・禁止できますが、就業規則で一律禁止とすることは認められません。このため届出制や申請制にしたうえで、就業規則においては、原則として労働者は副業・兼業を行うことができること、また、①~④のいずれかに該当する場合には、会社は副業・兼業を禁止または制限することができることを規定しておくのがよいといえます<規定例参照>。

  • 副業・兼業の形態

     副業・兼業の形態はさまざまですが、臨時社員、パート・アルバイトなどの「雇用型」と会社役員(委任契約)や個人事業主・フリーランス等の「非雇用型」の大きく2つに分けられます。
     いずれの場合も、前述した①~④に該当しないか確認する必要がありますが、雇用型の場合は労働基準法や労働安全衛生法が関係してくることから、使用者として留意すべき事項、確認すべき事項が発生します。

  • 労働時間の通算

     労基法では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合をも含むとされています。よって、副業・兼業先での労働時間についても通算することとなりますが、実務への影響としては、「割増賃金問題」と「健康管理問題」の2点となります。
     なお、これは労働者としての労働時間になりますので、個人事業主としての就労時間やボランティアなどの活動時間についてまで把握・通算する必要はありません。

    【割増賃金精算】
     自社のフルタイム勤務者が他社で副業を行う場合はあまり心配する必要はありませんが、自社のパート社員(短時間勤務者)等が他社で兼業するような場合は、両社の労働時間を通算する必要があり、1日8時間、週40時間を超過した勤務が割増賃金の支払い対象となります。どちらの使用者に割増賃金の支払い義務が生じるかは事例により異なります。基本的には後から雇用契約を締結した方が支払うものとなりますが、勤務状況によっては先に雇用契約を締結した使用者にも支払い義務が生じますので留意が必要です。

    【健康確保措置】
     使用者は、労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、労働安全衛生法に基づき、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックなどの健康確保措置を実施しなければなりません。
     フルタイム勤務者が副業をする場合、平日時間外や所定休日に勤務を行うこととなり、長時間労働・過重労働になりやすいものとなりますので、副業を認める場合でも月40~45時間を上限とするなど、自社の就業に支障を来すことがないよう、また過重労働とならないよう一定の制限を設けるべきものといえます。

  • 懲戒処分の可否

     裁判例では、就業規則において労働者が副業・兼業を行う際に許可等の手続きを求め、これに対する違反を懲戒事由としている場合において、形式的に就業規則の規定に抵触したとしても、職場秩序に影響せず、使用者に対する労務提供に支障を生ぜしめない程度・態様のものは、禁止違反に当たらないとし、懲戒処分を認めていません。
     労働者の副業・兼業が形式的に就業規則の規定に抵触する場合であっても、懲戒処分を行うか否かについては、職場秩序に影響が及んだか否かなどの実質的な要素を考慮したうえで、慎重に判断する必要があります。

  • まとめ

     副業・兼業と一口に言っても、何をもって業とするか不明確であり、どこまで届出をさせればよいか悩ましいといえます。収入や報酬を得るだけであればその形態は実にさまざまですし、昨今はネットを収入源とした活動が多岐にわたるため、まずは届出を要する範囲を明確にする必要があります<下表参照>。


     届出された中から、禁止・制限するものが出てくるかもしれませんが、その判断基準についても確認しておく必要があります。競業避止や情報漏洩に該当することから同業他社での勤務を禁止したり、会社の名誉信用を損う可能性等があることからホステス・ホストクラブ等での勤務を禁止したりするケースが想定されます。いずれにしても、副業・兼業の規定整備や運用にあたっては、会社としての方針や考えを明確にしたうえで取り組むことが肝要です。

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