賃貸相談

月刊不動産2009年6月号掲載

借家人のプレハブ倉庫の建築

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

一戸建ての貸家の借家人が、貸家の庭先にプレハブの物置を建てていました。建物は賃貸しましたが、土地まで賃貸した覚えはなく、契約違反の行為だと思うのですが、契約の解除はできますか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.借家人による敷地の利用

    (1)  問題点の所在

     一般的に、建物賃貸借契約の場合には、借家人は建物を使用収益する権利は有していても、その敷地となる土地を使用する権利はないものと考えがちです。しかし、建物を使用収益する以上は、敷地の外から敷地内の建物に出入りせざるを得ず、借家人は当然に当該建物の敷地を通行することになります。

     その意味において、借家人は敷地を利用(通行)することは当然に容認されるべき事柄ですが、それでは借家人が敷地を利用するのは通路として通行することのみ許容されているのかといえば、必ずしもそうとはいえません。

     例えば、一戸建ての貸家で、塀等で囲われた敷地内に草木が植えられ、庭としての体裁が整えられている場合に、借家人がその敷地内に花を植えて、庭として使用することは許容された利用方法の範囲内の行為と考えられます。

     要するに、建物賃貸借契約の目的に従い、その建物を使用するのに必要な限度で、その敷地における通常の用法による使用をすることは、建物の使用に随伴するものとして認められるものと考えられています。その意味においては、借家人が建物の使用に加えて、その庭の部分を使用する行為は借家権に包含され、あるいは借家権に随伴する権利の一種と解されているものといってよいと思います。

    (2) 住居としての借家における物置の設置

     それでは、住居として建物を賃借している借家人が借家生活を継続する上で物置を設置することは、借家権に包含され、あるいは借家権に随伴する権利の一種と考えることができるかということですが、物置の設置は、庭として使用する場合のように建物を使用するのに必要な限度における敷地の通常の用法による使用といえるかというと、疑問があるといわざるを得ないと思います。

     敷地内を庭として使用するのではなく、物を建設するということは、やはり通常の使用方法を超えるものというべきであり、あらかじめ賃貸人の承諾を得るべき行為であると考えられます。したがって、物置の設置は、借家人の用法違反であると解されます。

    2.賃貸人による借家契約の解除の可否

     物置の設置が用法違反になるとすると、賃貸人は契約違反を理由に借家契約を解除できるかということについては、契約違反が信頼関係を破壊するに至っているか否かを考慮する必要があります。

     その場合のポイントはとしては、次の点を考慮することになります。

    (1) 使用目的との乖離(かいり)の有無

     借家契約には、契約に建物の使用目的が定められているのが通常です。例えば、住居目的とか、店舗、オフィス等としての使用目的などです。住居目的の建物賃貸借の場合において、店舗営業用の商品の物置を設置するとなると、そもそも賃貸借契約に定めた建物の使用目的に明らかに反する事態が生ずることになります。逆に、住居目的の建物賃貸借において、家具や生活用品のうち当面不用な物を保管するための物置の場合には、使用目的に直ちに反するとは言い難いということになります。実際に設置された物が、建物の使用目的に合致しているか、乖離しているかは信頼関係の破壊の程度を判断する重要な要素となります。

    (2) 原状回復の容易性

     借家人が設置した物が、賃貸借契約終了時に容易に元に戻すことができるものであり、原状回復が容易なものである場合には、その行為が用法違反に該当するとしても、その背信性は比較的軽微なものと考えられます。したがって、実際に設置された物が本格的な建築行為により設置されている場合は、背信性の度合いは大きなものと評価されることになりますし、簡易な組立式のものや、プレハブ建築で解体撤去が容易なものである場合には、信頼関係を破壊するに至らない特段の事情があるものと判断されやすくなります。

     上記の使用目的との乖離の有無と原状回復の容易性の観点から見て、契約の解除の可否が決まると考えてください。

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