賃貸相談

月刊不動産2013年9月号掲載

借家人による貸家の無断増築

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

一軒家を賃貸していますが、借家人が貸家に書斎とサンルームを増築していることが分かりました。私としては借家人と賃貸借を続ける気はありませんので無催告で賃貸借を解除したいのですが、可能でしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 賃貸借契約解除の原則

     建物賃貸借契約において、賃借人の契約違反があった場合の解除の手続については、以下のように3つに整理することができます。

    (1) 催告解除の原則

     契約の解除手続については民法第541 条に定められています。契約の解除は、一般的に、契約上の義務違反があった場合には、契約上の義務違反をした相手方に対し、相当期間を定めて契約を履行するよう催告をし、催告期
    間内に履行がなされなかった場合に契約を解除することができるとされています。

    (2) 解除ができない場合

     賃貸借のような長期的・継続的な契約関係の場合には、契約上の義務違反があった場合でも、相当期間を定めた催告を行い、催告期間内に履行がなければ常に契約を解除できるとは限りません。賃貸借契約のような長期的・継続的な契約関係の場合には、契約違反が比較的軽微なものにとどまり、当事者間の信頼関係を破壊するに至っていない場合には、契約の解除はできないものとされています。

    (3) 無催告解除の例外

     相手方の義務違反の程度が著しく、催告をしても催告期間内に適正な履行がなされる見込みもない等、背信行為の程度が著しく、契約当事者間の信頼関係を破壊するに足りる程度に達している場合には、例外的に無催告での解除が認められる場合があります。

    2. 貸家の無断増築と賃貸借契約の解除

     無断増改築といっても、貸地の場合と貸家の場合とでは全く状況が違います。土地賃貸借契約では、借地人の無断増改築があったとしても、土地賃貸借契約に無断増改築禁止特約がない限り、契約違反にはなりませんが、建物賃貸借契約では、借家人の無断増改築の場合には、その程度にもよりますが、原則として、重大な契約違反として、賃貸借契約の解除が認められる場合が多いといえると思います。

     この違いは、建物の所有権の帰属にあります。

    (1) 借地契約における無断増改築

     借地契約の場合には、借地上の建物の所有権は借地人が有しています。借地人にとっては自己の所有する建物ですから、単に土地賃貸借契約が締結されているだけの状態であれば、借地人は自由に借地上の建物の増改築を行うことができます。しかし、借地契約に無断増改築を禁止する旨の特約条項がある場合、判例では、この特約は有効と解されていますので、借地上の建物の無断増改築は、法律では禁止されていませんが、この特約違反になるわけです。

    (2) 借家契約における無断増改築

     これに対して、建物賃貸借契約では、建物は他人の所有物です。借家人が他人(賃貸人)の所有物を勝手に増改築したり、無断で構造を変更させたりすることは、無断増改築禁止特約があるか否かにかかわらず、他人の建物所有権に対する侵害となり得ますし、建物賃借人は少なくとも善管注意義務違反、賃借建物の保管義務違反が認められることになります。

     御質問のケースでは、賃借人が賃貸人に無断で貸家に書斎とサンルームを増築しているということですから、賃借人の義務違反は明らかです。問題は無催告での解除が認められるかという点だと思われます。

     判例では、建物の賃借人が無断で借家に玄関と勉強部屋兼サンルームを増築したというケースで、建物賃貸借契約の無催告解除が認められたものがあります。このケースは、約10 坪程度の建物に3坪程度の玄関と同じく3坪程度の勉強部屋兼サンルームを増築したというものですので、当初賃貸していた建物面積に対して増築した部分の面積の割合が高く、容易に原状回復することもできないと考えられますので、無催告解除を認めたのは相当であったと考えられます。

     これとは逆に、無断での改築はなされたものの、容易に撤去できる簡単な仮建築程度のもので、建物に与える影響も軽微なものにとどまる場合には、当事者間の信頼関係が破壊されているとまでは認められず、契約の解除ができないとされる場合があります。

     また、賃貸人が、借家人の無断増改築の事実を知りながら、建築工事が行われている際に、全く異議を述べなかったというような場合には、黙示の承諾があったとみなされる場合があり得ます。

     したがって、借家人の無断増改築を発見した場合には、それが工事中である場合には直ちに異議を述べ、既に工事が完了していた場合には増改築の程度を見極めて契約解除の可否を考えることになります。

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