賃貸相談
月刊不動産2006年8月号掲載
借家の敷地内の簡易式車庫建築と賃貸借契約の解除
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
一戸建ての借家を賃貸したところ、借家人は敷地内に簡易組立式の車庫をつくっていたことが分かりました。土地は賃貸していないので建物賃貸借契約を解除したいと思いますが認められるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 借家人の敷地利用の法律関係
建物賃貸借の場合には、借家人は建物のみを賃借しているわけで土地を賃借する契約を締結しているわけではありません。しかし、土地を貸していないからといって、借家人が建物の敷地を使用することの一切を拒むということはできません。建物の敷地を利用することなく建物を利用することは不可能ですから、判例上も建物賃借人は建物賃貸借契約を締結すれば、当然に建物使用の目的の範囲内においては敷地の利用権を有するものと解されています(最高裁昭和38年2月 2日判決)。この敷地利用権の法的性質は、建物の賃貸借に付随した使用貸借関係であるとか、建物の賃貸借契約という主たる契約に付随する従たる契約であって建物の賃借権に包摂された権利であるなどと説明されています。2. 借家人の敷地利用権の範囲
借家人が建物や敷地を利用する権利を有するとしても、それは全く自由に建物や敷地を使用することができるというわけではありません。賃貸借契約を締結して他人の所有物を使用する以上、使用方法は一定の合理的な範囲に限定されます。
そして、借家人が、(1)どの範囲の建物敷地を使用できるのか、(2)どのような利用方法が認められるのかについては、まず第1には賃貸人と借家人との間の建物賃貸借契約に定められていればそれに従うことになります。ですから、かなりの範囲の敷地利用を伴うことになる建物賃貸借契約を締結する場合には、建物の賃貸借契約書に必ず敷地の利用について、借家人が使用できる敷地の範囲や敷地の使用方法などを明確に定めておくことがトラブル防止には必要です。
第2に、建物賃貸契約に何も定めていない場合には、判例では、「その家屋に居住し、これを使用するために必要な限度でその敷地の通常の方法による使用」が可能であるとされています。3. 借家人の用法遵守義務
借家人が建物やその敷地の利用権を有する場合でも借家人は、賃借建物を契約で定めた目的及び用法、あるいは建物の性質上定まる用法を守って使用すべきであると考えられています。これを借家人の「用法遵守義務」といいます。
借家人が、この用法遵守義務に違反して建物や敷地を使用した場合には、借家人の契約不履行となりますので、賃貸人は、借家人に対し、違反行為の差止めや損害賠償の請求ができます。また、借家人の用法遵守義務違反が著しく、賃貸人との間の信頼関係を破壊するに至ったケースでは、賃貸人は借家人との間の建物賃貸借契約を解除することも可能となります。4. 一戸建て建物の敷地の利用と用法遵守義務
借家人の建物敷地の使用が用法遵守義務違反となるか否かは、要するに、何をもって「その家屋に居住し、これを使用するために必要な限度の敷地の通常の方法による使用」というのかという問題です。
この点の判断は、(1)借家契約を締結した目的は何であったか、(2)建物と敷地の関係がどうなっているか、(3)建物賃貸借契約終了時における原状回復が容易な使用をしているか否か、などの点を総合的に考慮して決められることになります。
つまり、(1)の借家契約を締結した目的という点からは、住居として建物を賃貸したときに敷地内に工場を建てるということは相当とは認められませんし、(2)建物と敷地との関係という点からすれば、賃貸した建物よりも大きな建物を建築するということも原則として認められないということになります。
本件は、一戸建ての住宅でその敷地の余った部分に簡易組立式の車庫をつくったというものですが、現在の車社会の実情からすると、住居使用の目的の場合に自家用車のために車庫として敷地を利用することは不相当とは言い難いと言わざるを得ません。
借家人がつくった車庫が簡易組立式の車庫であるということは撤去の容易なものということになりますので建物使用に必要な範囲内の通常の方法による利用の範疇(はんちゅう)を超えるとは言い難いもので、賃貸借契約の解除は困難であると思われます。