法律相談

月刊不動産2005年11月号掲載

借地権売買における土地の瑕疵

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

借地権付き建物を、地主の承諾を得て購入しましたが、購入後に敷地内の擁壁に瑕疵のあることが判明しました。瑕疵の補修は誰に対して請求すればよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 第1 請求の相手方

     敷地内の擁壁の瑕疵修補については、土地賃貸人である地主に対する請求と、借地権の売主に対する請求が考えられますが、請求の相手方になるのは地主のほうです。借地権の売主に瑕疵修補を請求することはできません。

    第2 地主に対する請求

     賃借権は法律上原則として譲渡が禁じられていますが、賃貸人の承諾があれば、賃借権を譲渡することも可能です(民法612条1項)。賃借権が譲渡された場合には、賃借権譲受人が賃借人の地位を引き継ぎ、賃貸人と賃借権譲受人が賃貸借契約における当事者の法律関係に立ちます。
     賃貸借契約の当事者間では、賃貸人は賃借人に対して目的物を使用収益させる義務があります(同法601条)。この賃貸人の義務の当然の帰結として、使用収益に差し支える箇所があるときには、賃貸人はその箇所の修繕をしなければならないものとされています(同法606条1項)。
     本件の土地の賃貸借では、地主が賃貸人、借地権譲受人が賃借人となっていますので、土地に瑕疵があれば、地主には借地権譲受人に対しその瑕疵修補の義務があります。借地権譲受人は敷地内の擁壁の瑕疵に関し、地主に対してその修補を請求することができるわけです。
     なお修繕が不可能であって、全部又は一部が使用できない場合には、事情が異なります。修繕不可能のため使用利益が全部不能なら賃貸借は終了し、一部不能なら賃料が割合的に減少することになります。

    第3 売主に対する請求

     売主に対する請求の法的な根拠としては、瑕疵担保責任が考えられます。しかし売買対象が借地権であるときは、土地に瑕疵があっても、借地権の買主が売主に瑕疵担保責任を問うことはできません。
     すなわち民法では、「売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は契約の解除をすることができる。この場合において契約の解除をすることができないときは損害賠償の請求のみをすることができる」(同法566条1項)とした上、「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは566条の規定を準用する」(同法570条本文)として、売買における売主の瑕疵担保責任を定めており、瑕疵担保責任は、売買の目的物に瑕疵がある場合の解除又は損害賠償請求と構成されています。ところが借地権の売買では、売買の目的物は土地賃借権であり、土地そのものではありません。そのため土地に瑕疵があっても借地権の買主は瑕疵担保責任を問うことはできないことになります。

     最高裁でも、「建物とその敷地の賃借権とが売買の目的とされた場合において、敷地についてその賃貸人において修繕義務を負担すべき欠陥が売買契約当時に存したことがその後に判明したとしても、売買の目的物に隠れた瑕疵があるということはできない。けだし、この場合において、建物と共に売買の目的とされたものは、建物の敷地そのものではなく、その賃借権であるところ、敷地の面積の不足、敷地に関する法的規制又は賃貸借契約における使用方法の制限等の客観的事由によって賃借権が制約を受けて売買の目的を達することができないときは、建物と共に売買の目的とされた賃借権に瑕疵があると解する余地があるとしても、賃貸人の修繕義務の履行により補完されるべき敷地の欠陥については、賃貸人に対してその修繕を請求すべきものであって、敷地の欠陥をもって賃貸人に対する債権としての賃借権の欠陥ということはできないから、売買の目的物に瑕疵があるということはできないのである。なお右の理は、債権の売買において、債権の履行を最終的に担保する債務者の資力の欠如が債権の瑕疵に当たらず、売主が当然に債務の履行について担保責任を負担するものではないこと(民法569条)との対比からしても、明らかである」と判断されています(最高裁平成3年4月2日判決)。

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