法律相談

月刊不動産2004年4月号掲載

借地上の建物の譲渡

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

借地上の建物を譲渡したいと思い、地主に譲渡を認めてもらうようお願いに行きましたが、承諾してくれませんでした。どうしても建物を譲渡したいのですが、どのようにすればよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  建物譲渡を地主が承諾しない場合、裁判所に対して、地主の承諾に代わる許可の裁判を申し立てることができます。
     さて、他人の土地上に建物を所有するには、土地の利用権がなくてはなりません。利用権がなければ、建物収去義務が発生します。借地上の建物が譲渡されるときは、建物の譲受人に土地の利用権が必要です。
     ところが法律上賃貸人に無断で賃借権を譲渡することはできません(民法612条1項)。賃貸借契約でも、賃貸人の承諾なくして賃借権を譲渡できない旨定められているのが普通です。賃借権の無断譲渡は、賃貸借契約の解除事由ともなります(同条2項)。譲受人が、建物とともに土地の賃借権を譲り受けて、土地利用権を確保するためには、土地賃貸人の承諾が必要となるわけです。
     一般に、借地人が借地上に建物を建てて資本を投下したけれども、後に建物を第三者に譲渡して資本を回収したいと考えることは極めて自然です。特段にこれを禁止する理由もありませんし、建物を守るという社会経済的な観点からみても借地上の建物譲渡は認められるべきです。けれども一方で、賃借権譲渡には地主の許可が必要という原則を貫くならば、借地上の建物を自由に譲渡できないという不都合が生じてしまいます。
     そこで借地借家法は、借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に、第三者(譲受人)が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず、地主が賃借権譲渡を承諾しないときには、裁判所は、借地権者の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えることができると定めました(借地借家法19条1項前段)。裁判所が、賃貸人に代わって許可をすれば、土地賃借権を譲渡できることとしたわけです。賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮して許可の可否が決定されます(同条2項)。
     ところで地主が裁判外で賃借権譲渡を認める際には、借地人から地主に対し、承諾料(名義書換料)が支払われる慣行があります。
     地主自らが許可をするのではなく、裁判所が地主の承諾に代わる許可の裁判をするにあたっても、裁判外の慣行を考慮するのが衡平です。そのため賃貸人の承諾に代わる許可の裁判にあたっては、賃借人からの一定の金銭支払を条件とすることができることとされています(同条1項後段)。多くの場合に、裁判所は、許可に承諾料(名義書換料)支払の条件をつけています。
     承諾料(名義書換料)の算出については、特定の計算方法が確立しているわけでもなく、地域差もあります。しかし多くの場合には、まず借地権価格(更地価格に借地権割合を乗じた額)を算定してその1割を基準にして、これに個別的なプラスマイナスの事情を勘案して承諾料(名義書換料)が決められているようです。例えば借地権の残存期間が長ければ、額が大きくなる事情として考慮され、従前に多額の権利金を払っていたのであれば、額が小さくなる事情として考慮されるものと考えられます。また都市部では借地権価格に対する承諾料(名義書換料)の割合は比較的高く、郊外では比較的低いということもできそうです。
     第三者(譲受人)が賃借権を取得すると地主に不利益となるような場合には、裁判所は許可をしませんが、裁判所が許可するようなケースであっても、地主としては、第三者(譲受人)が賃借人となるよりは、自らが建物と借地権を買い取って、土地の賃貸借関係を消滅させた方がよいと考えることもあります。借地借家法は、このような地主の希望に配慮し、地主自らが建物と賃借権の譲渡を受ける旨申し立てた場合には、相当の対価を定めて、地主に対して建物と賃借権を譲渡することを命じることができることにしています(同条3項)。地主が自らに建物と賃借権を譲渡するよう裁判所に申立てをすることができる権利を介入権といっています。地主から譲渡の申立てがあったときには、原則として裁判所は譲渡を命ずる裁判をしなければならないという裁判例があります(東京高裁:昭和52年6月9日決定)。

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