税務相談

月刊不動産2008年11月号掲載

個人地主が前払地代方式により定期借地権を設定した場合の税務について

情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

個人地主が前払地代方式により定期借地権を設定した場合の税務上の取扱いについて教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.定期借地権設定時の問題点

    (1) 権利金方式の問題点

     定期借地権を設定する契約を締結の際には、これまで借地権設定の対価として、権利金や、契約期間中に地主が預かる保証金が授受されてきました。
     しかし、権利金方式においては、権利金が不動産所得となる場合、個人地主側では、受け取った際に一時に所得税と住民税の累進税率が適用され、最高50%の税率適用により課税されます。このため、実務上は権利金方式を採用するケースが少ないという状況でした。
     これに対し借地権者側では、権利金は土地等の取得原価として資産計上され、税務上、期間の経過に応じての償却が認められないという問題がありました。

    (2) 保証金方式の問題点

     保証金方式においては、保証金を預かった個人地主は、所得税や住民税が課税されることはありません。しかし、個人地主に相続税が課税される局面では、保証金が借地権者に契約期間終了後返還する債務として扱われ、その評価は保証金の額によらず、割引現在価値によって評価されます。
     このため、地主側では、長期債務である保証金のうち債務として評価されなかった金額に相続税が課税されるという問題がありました。また借地権者側でも、資金が長期間塩漬けになるという問題がありました。

    2.前払地代方式により設定された定期借地権の税務

    (1) 前払地代方式による定期借地権設定

     定期借地権の設定時に、借地権者が地主に対して、借地に係る契約期間の賃料の一部又は全部を一括前払の一時金の授受を行う場合があります。
     この場合において、借地権者と地主が一定の定期借地権設定契約を締結し、契約書を契約期間にわたって保管した上で、取引の実態も契約の内容に沿うものであるときは、借地権者と地主の税務上の取扱いは、次のとおりとなります。

      ①借地権者は、この一時金を前払費用として計上し、当該事業年度又は当該年分の賃料に相当する金額を損金の額又は必要経費の額に算入します。

      ②個人地主は、この一時金を「前受収益」として計上し、その年分の賃料に相当する金額を不動産所得の収入金額に算入します。

    (2) 対象となる定期借地権設定契約書

     (1)の取扱いの対象となる定期借地権設定契約書とは、次の内容を盛り込んだ契約書をいいます。

      ①授受する一時金が前払賃料であること。

      ②①の一時金が契約期間にわたって、又は契約期間のうち最初の一定の期間について、賃料の一部又は全部に均等に充当されていること

    (3) 前払地代方式による費用収益の計上方法

     前払地代方式により、時価1 億円の土地に年額地代200万円で借地期間50年の定期借地権の設定をする場合、50年分の地代全部を一括で授受できます。この場合、授受する地代の総額は1億円となります。地主は1億円の前受地代を一度に受け取りますが、税務上は毎年200万円ずつ収益計上することになります。
     これに対して借地権者は、毎年200万円ずつ、支払地代として費用計上することになります。

    3. 前払地代方式による定期借地権設定のポイント

    (1) 前払地代方式による定期借地権設定のメリット

     前払地代方式は、借地権者側で期間に応じて前払地代を費用化できることが最大のメリットです。
     また、個人地主側でも地代を期間に応じて収益計上することが認められたので、権利方式や保証金方式における問題を解消することができます。

    (2) 借地期間満了後の地主の土地活用

     借地期間満了後、土地は地主に返還されます。返還後に建物を取り壊すか、そのままにしておくかは地主の選択になります。借地期間が経過するにつれて、土地所有者は収入が増えて、資金がプールされます。これにより、保有土地を一部、定期借地権で貸して、その資金で建物を建てるという手法が実行できます。
     この場合、地代と家賃の合計が収入となります。建物は減価償却費が計上できるので、前受地代の収益と相殺されます。このため、キャッシュフローは高く、実質的には無借金という安全な土地活用ができます。

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