税務相談

月刊不動産2012年4月号掲載

個人が宅地を譲渡した場合の申告年について

情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

個人が宅地の売買契約を年末に締結し、年明けに引渡しをした場合の譲渡所得を申告すべき年について教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.譲渡所得の申告時期の原則

    (1)譲渡所得の計算と申告の時期

    個人が宅地を譲渡した場合、所得税の譲渡所得の金額は、その譲渡に係る総収入金額(譲渡代金)から譲渡した宅地の取得費や譲渡費用を差し引いて計算します。この譲渡所得の金額は、譲渡に係る総収入金額を収入すべき時期(年)において申告をします。

    (2)収入計上時期の引渡し基準と契約効力発生日基準

     所得税の計算上、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として、譲渡資産の引渡しがあった日によります(「引渡日基準」)。ただし、納税者の選択により、譲渡資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める(「契約効力発生日基準」)とされています(所得税基本通達36-12)。

     ご質問の場合は、「引渡日基準」により、譲渡資産である宅地を引き渡した年において譲渡所得の申告を行うのが原則ですが、「契約効力発生日基準」により、売買契約の効力発生日の属する年に申告することも可能です。

    2.契約効力発生日基準を選択する場合の注意点

    (1)不動産の売買契約が成立しているかの確認

    1.(2)の契約効力発生日基準は、一般に「契約日基準」と理解されていますが、正しくは「契約の効力発生の日」基準であり、「契約日」又は「契約書作成日」そのものではありません。さらに、宅地等の不動産の譲渡について契約効力発生日に至っているというためには、不動産の売買契約が私法上成立している、といえなくてはなりません。

     一般に、売買契約は両当事者の合意よって成立する(民法555条)とされています。しかし不動産の売買については、判例(昭和50年6月30日東京高裁判決)上、「売買契約書を作成し、手付金若しくは内金を授受するのは相当定着した慣行であることは顕著な事実である。契約当事者が慣行に従うものと認められるかぎり、右のように売買契約書を作成し、内金を授受することは、売買契約の成立要件をなすと考えるのが相当である。」とされています。つまり、判例では不動産の譲渡について、売買契約書が作成されたものの、売買契約書で定められた手付金の授受がされていない場合には、売買契約の成立要件が満たされておらず、契約が私法上成立していない、という考え方が示されています。

     売買契約が私法上成立していない状態であれば、契約の効力発生の日に至っていることにはなり得ません。独立当事者間の不動産の売買等、慣行に従い、その契約の締結(契約書の作成・調印)と同時の買主による手付金の支払義務の履行が契約書に定められている場合は、手付金の支払が履行されていることを前提として、その契約書の調印日が契約の効力発生日ということになります。

     契約効力発生の日の判定に当たっては、契約書の存在とその契約日とされている日だけを確かめるのではなく、手付金の支払条項の有無、その支払条項が有る場合はその履行の有無を確認することも必要です。

    (2)手付金の支払条項がない売買契約書の場合

     手付金の支払条項がない不動産の売買契約書が作成されている場合は、売主・買主間に密接な関係がある同族内での譲渡が想定されます。このような場合、第三者間の譲渡に比べるとそのような条件自体が異例であることから、売買につき真に合意があるのかどうか疑いを生むおそれがあります。

     しかし、売買契約書に手付金の支払条項がなく、その授受がない場合であっても、契約書作成後速やかに代金を全額支払い、登記関係書類等の交付等を経て引渡しが完了しているときは、売買につき真に合意があると考えるべきでしょう。

     また、手付金の支払条項がない売買契約書に、契約の効力発生の日を契約書の調印日とする旨の取決めがあるような場合は、手付金の授受と無関係に効力の発生を合意している以上、手付金の授受がないことは契約の成立に影響しないというほかありません。したがって、契約書に定められた契約の効力発生の日を否定することはできないだろうと思われます。

    (3)契約効力発生日基準選択時の注意点

    不動産の売買契約において、契約効力発生日を譲渡の日とする場合は、極力、不動産売買の慣行に従い、契約締結と同時の手付金の支払義務を定めた契約書を作成のうえ、手付金の授受を完了させ契約の成立について疑いがないようにしておくべきです。

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