労務相談
月刊不動産2022年7月号掲載
企業に求められている労働時間の把握・管理方法とは
野田 好伸(特定社会保険労務士)(社会保険労務士法人 大野事務所パートナー社員)
Q
現在、タイムカードを用いて打刻をさせていますが、打刻ルールを明確にしていないため、出勤時に打刻する者、業務開始時に打刻する者など、人により異なる状況です。この度、勤怠システムの導入を検討していますが、システム導入時の留意点や労働時間管理における使用者の責務について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
回答
単に1日何時間働いたかを把握するだけでは足りず、使用者がみずから現認する、または客観的な記録を基礎とするなどして、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録する必要があります。また、過重労働による健康障害を防ぐための「労働時間の状況の把握」が求められています。
-
労働時間に関する規定
労働時間に関する法規定として労働基準法(以下「労基法」)がありますが、実は労基法では労働時間の考え方について明確にされておらず、以下のような内容となっています。
労働基準法第32条(労働時間)
①使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
②使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。 -
判例にみる労働時間の定義
-
労働時間の適正な把握とは
2017年1月に「労働時間の適正な把握のための使用者向けのガイドライン」が策定され、使用者の講ずべき措置が示されました。
(1)始業・終業時刻の確認・記録
使用者には労働時間を適正に把握する責務があることから、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録することを求めており、1日何時間働いたかを把握するのでは不十分であるとしています。(2)始業・終業時刻の確認および記録の原則的な方法
本ガイドラインでは、原則的な記録方法として以下の2つを示しています。1 使用者または労働時間管理を行う者が、みずから現認することにより確認すること
2 タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること使用者みずからの現認またはタイムカード等の客観的な記録に基づく方法を原則としながら、例外的な方法として、労働者による「自己申告制」を認めています。ただし、自己申告制を採用する際には、自己申告により把握した労働時間と、入退場記録、パソコンの使用時間・PCログ、メールの送受信履歴等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合、実態調査を実施し、労働時間の補正をするなどの措置を講ずることとしている点に留意する必要があります。客観的記録と労働時間との関係性について、図表2のように整理できます。
なお、労働時間の適正な把握は、未払い賃金・サービス残業の発生防止を目的としていることから、対象労働者は、労基法第41条適用者(管理監督者、監視断続労働者、高度プロフェッショナル制度対象者等)およびみなし労働時間制対象者を除く全ての労働者とされています。 -
労働時間の状況の把握とは
長時間労働やメンタルヘルス不調により、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないようにするため、医師による面接指導が確実に実施されるよう労働者の健康管理が強化され、労働時間の状況を把握することが義務となりました(改正労働安全衛生法)。
「労働時間の状況の把握」とは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものとされています。なお、労働時間の状況の把握は、健康管理を目的としていることから、対象労働者は、高度プロフェッショナル制度対象者を除く全ての労働者(管理監督者、みなし労働時間制対象者、派遣労働者等を含む)とされています(図表3)。 -
最後に
クラウド上の勤怠管理システムを利用した労働時間の把握・記録方法が普及していますが、これらを利用する場合でも、労働者がみずから始業・終業時刻を入力する形式(自己申告制)は、前述した例外的な方法に該当しますので、ご留意ください。昨今は、入退館記録やPCログと連結し、当該記録を始業・終業時刻とするシステムも登場しているようです。