賃貸管理ビジネス
月刊不動産2023年7月号掲載
人材獲得のための社内制度の見直し
今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)
Q
地方都市で不動産会社を経営しています。地域では中堅規模の会社で、社員の採用については、従来、中途社員を中心に行ってきました。しかし8年前からは、地元大学生やUターン候補者など新卒社員も積極的に採用しています。
ただ、ここ数年思うように求人に対する応募が増えず、新卒・中途ともに採用がうまくいかないため、新規採用が人材不足に陥っています。緩やかにですが管理戸数は順調に増えてきています。ところが、人材が獲得できないとなれば、今後の事業展開を考え直さなければなりません。人材を獲得するために、よい方法があればぜひ教えていただきたいです。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
地方都市だけではなく、大都市部においても人材獲得が難しくなっています。難易度の高い仕事ほどより獲得が難しいため、人材の獲得競争はより激化します。
求人採用を成功させるには、まずは「働き手が何を求めているのか」に注目すべきでしょう。希望する働き方、労働条件、休日日数、ワークライフバランスなど、働き手が少ないなか、優良な労働者を確保するためには、企業側が柔軟に変わる必要があるのです。 -
はじめに
少子高齢化といわれて久しく、ついに2022年の出生率は80万人を割り込んでいます。2023年3月時点で、有効求人倍率は1.35倍を超えており、求人数よりも働き手が少ない状況で、企業は人材募集をしても採用しにくい状況が続いています。将来、若年層が減ることは確実ですが、現在でも若年の働き手が容易に集まるわけではなく、人材採用が安泰という中小企業は限られています。働き手が減るなか、優良な人材はよりよい条件を求め、大手に集中していく傾向にあります。一方、多様性を求めてあえて中小企業を求める一定層も存在しないわけではありません。
さて、今後さらに若年者が減るなかで、不動産管理業は「選ばれる業界」として若者に認識されているのでしょうか。事業を拡大するには、選ばれる業界、選ばれる企業にならなければなりません。 -
問われる企業の包容力
企業トップだけでなく、マネジメント層から会社全体の意識を時代に合わせる必要があります。「Z 世代は……」とか「今どきのゆとり世代は……」などと言っているようでは、よい人材が集まりません。仮に入社したとしても、遠からず去っていくに違いありません。時代の変化とともに、世代特性に企業がいかに合わせていけるかが重要なのです。不動産業界は離職率が高いからと、辞める前提での教育ではなく、育てる前提での教育を推進するなど、これからは会社の包容力が問われます。「俺の時代は… … 昔は… … 」という発想は、いち早く企業のトップが捨てなければなりません。若手からの意見があれば、積極的に話を聞く姿勢を持ち、新しい意見をつぶすのではなくマネジメント側が手を差しのべなければならないのです。
たとえば、オーナーセミナーや社内イベントなどで、新卒社員に積極的にプロジェクトリーダーやサブリーダーになってもらい、思い切って任せてしまうのもいい方法です。わからないことの連続ですが、「信じて任せる」ことで責任感が生まれ、仕事を自分ごととして捉えやすくなります。多少のミスはあっても、マネージャーがしっかりとフォローをすればいいわけですし、失敗こそ成功の母です。それらの経験をもとに、今後自信を持って仕事にあたってくれるようになります。 -
積極的な社内制度改革で、働き手の心を捉える
もちろん、世代だけでなく、個々によって「仕事観」は違うのですが、「お金(給料)」よりも「仕事とプライベートとのバランス」が重要という考え方、いわゆる「ワークライフバランス」を重視する人も多く存在しています。年間休日や有給消化率などの充実は、プライベートを充実させたい人からは最も見られるポイントなのです。
実際に新卒社員にヒアリングをすると、お金よりもプライベートを充実させたいという声もよく耳にします。時代が時代なら「君は、働く気があるのか?」などといわれるような内容ですが、そもそもそのような発想自体が時代錯誤であり、企業側が柔軟に発想を転換しなければならないのです。
またフレックス制度の導入などもよいでしょう。男女の雇用機会が均等化するなかで、育児も夫婦共同で行うことが常識であり、子どもの保育園へのお迎えも行ける方が行くということがあたり前の世の中になりました。フレックス制度の導入により、定時だとできなかったことができるようになり、これまで働きたくても働けなかった人を雇うことができるのです。
労働者を獲得することがますます難しくなるなか、他社に先駆けて差別化を図ることができれば、よりよい人材を得ることができるでしょう。そのためには、まずは企業側の社内制度を見直し、働きやすい環境づくりをすることが重要といえるのではないでしょうか。