賃貸相談
月刊不動産2009年1月号掲載
一時的な空室の賃貸借契約
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
1年後に入居予定のテナントがいるのですが、それまでの間は、他社に賃貸して賃料収入を得たいと考えています。どのような方法があるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 一時的な空室の利用の形態
すでに将来のテナントが決まっている場合でも、当該テナントとの賃貸借契約がスタートするまでの間は別の会社に賃貸しておきたいという考えはもっともなことと思います。しかし、うっかり別の会社に賃貸したために、予定していたテナントの入居時期が到来しても、明渡しをしてもらえないという事態が生ずると、本来予定していたテナントとの賃貸借契約が締結できず、契約違反として損害賠償を請求されることもあり得ます。
このような場合には、以下の点に注意する必要があります。
①将来のテナントの入居予定時期には必ず賃貸借が終了することのできる契約形態を取ること。
②1年未満の短期の契約期間の定めが有効となる契約形態を取ること。
③契約期間中に賃料減額請求を受けることがない契約形態を取ること。
④契約終了時に造作買取請求を受けることがない契約形態を取ること。
2.空室の一時利用のための定期建物賃貸借
将来のテナントの入居予定時期に賃貸借が終了するというためには、まず定期借家権を活用することが考えられます。テナントの入居予定日よりも相当期間前の日を賃貸借の終了日とする定期建物賃貸借契約を締結しておけば、将来のテナントの入居予定日までには、それまでの借家人から明渡しを受けることは可能となりますので、上記①の要件を満たすことができます。
また、借地借家法29条は、「期間を、1年未満とする建物賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす」と定めていますが、定期建物賃貸借契約ではこの規定は適用されませんので、②の要件も満たすことが可能です。
さらに、定期建物賃貸借契約は、賃料の改定に係る特約がある場合には適用しないと定められていますので③の要件も満たすことが可能です。
ただし、定期建物賃貸借契約は、借地借家法の適用を受ける賃貸借ですから、借地借家法に定める造作買取請求権は当然には排斥されるわけではありません。したがって、定期建物賃貸借契約において造作買取請求権を放棄する旨の特約を設ける必要があります。
3. 一時使用目的の賃貸借
これに対し、そもそも借地借家法が適用されない建物の賃貸借の類型として、「一時使用目的の賃貸借」があります。一時使用目的の賃貸借は、借地借家法の適用を受けないのですから、契約期間が満了した際に正当事由制度や法定更新制度の適用がありません。したがって、期間が満了すれば明渡しを受けることが法的に保障されることになり、前記①の要件を満たします。
借地借家法29条の適用も受けませんので、②の1年未満の契約期間も可能です。
さらに、借地借家法32条の賃料増減額請求権も適用がありませんので、定期建物賃貸借のように賃料改定に関する特約をしなくとも、当然に③の要件を満たします。
借地借家法33条造作買取請求権も適用されませんので、造作買取請求権を放棄する旨の特約をしなくとも、④の要件も満たすことになります。一時使用目的の賃貸借は、定期建物賃貸借よりもこの点においては使い勝手がよいという見方も可能です。
4. 一時使用目的の賃貸借の要件
例えば、建築現場の作業員の宿所として建物を一時的に使用する場合などのように、賃借人側の事情で一時使用をする場合には、一時使用賃貸借と認定されることに問題はないのですが、入居予定のテナントと賃貸借契約を締結するまでの間、一時使用目的で別会社に賃貸したいなどという賃貸人側の事情で一時使用の目的が認定されるためには、一時使用とする賃貸借の期間満了後の利用計画が具体的に確定していることが必要とされています。ただ単に、他のテナントに賃貸する計画が存するというだけではなく、そのために必要な契約を締結済みであるなどの具体的な事情が必要となりますので、そのような事情がない限りは、定期建物賃貸借とするほうが無難です。