法律相談

月刊不動産2005年10月号掲載

ローン条項による契約解除

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

「都市銀行他にローンの融資を申込み、承認を得られないときは自動的に解除になる」という条項を定めて戸建住宅を購入しました。この条項に基づく解除を主張するためには、都市銀行や信用金庫のほかノンバンクにも融資申込みをしなければならないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • ノンバンクに融資申込みをしなくとも、都市銀行やこれに準ずる信用金庫などに融資を申し込んでいれば十分です。都市銀行や信用金庫などから承認を得られない場合には、ノンバンクの融資申込手続を経ていなくても、自動的に契約は解除となり、解除の主張をすることができます。

     戸建住宅やマンションの購入にはローンの利用が一般的ですが、金融機関の審査によりローンが承認されないと購入者は代金を支払うことができません。しかしローンの審査が通らなかったために購入者が債務不履行の責任を負うことになるのは、いかにも不合理です。ローン審査が下りないと重い責任を負わされるという不安がつきまとうならば、購入意欲がそがれることにもなります。そこで購入者がローンを利用する場合には、多くの場合に、ローン条項が定められています。金融機関からローンの承認を得られなかった場合には、購入者が損害賠償などの不利益を負うことなく、契約解除によって契約を終了させることができるというのがローン条項です。ローン条項には、融資を得られなかった場合には自動的に契約解除となると定められるケースと、融資を得られなかった場合には買主が解除の意思表示をすることができると定められるケースがあります。

     ローン条項を付けて売買契約を締結したときは、買主は誠実にローンの申込みをしなければなりません。買主がローンの申込みを行わなかった場合や、書類提出を怠ったために融資を得られなかった場合には、契約解除にはならず、あるいは契約解除の意思表示をすることはできません。
     「買主は、売買契約締結後、速やかに『都市銀行他』に4,000万円の融資申込を行うが、平成13年5月31日までに融資の全部又は一部について承認を得られない場合、売買契約は自動的に解除となる」という特約を付した売買契約に関し、買主が、平成13年5月31日までの間に、東京三菱銀行、三和銀行、芝信用金庫などに融資の打診を行ったけれども融資の承認を得られなかったという事案において、この買主がいったんノンバンクAに対して融資を申し込んだもののこれを撤回していたという事情があったため、売主が、ノンバンクAに融資申込みをしながらこれを撤回した点を問題とし、融資手続を行う義務の違反があるからローン条項は適用されないと主張をして、係争となったケースがあります。

     裁判所は「買主が売買契約の締結にあたり都市銀行に比べ金利の高いノンバンクから融資を受けることを了承していたと認めるに足りる証拠はないこと、売主代表者が都市銀行から融資を受けられない部分については自ら貸し付けるなどという異常な主張をして売買契約の解除を阻止しようとしたことなどに加え、『都市銀行他』という文言は、都市銀行及びそれに類する金融機関を意味するものと解するのが自然であり、ノンバンクは『都市銀行他』には含まれないと認めるのが相当である」と述べ、この売主の主張を排斥し、ノンバンクAの融資申込手続を行っていなくとも、東京三菱銀行、三和銀行、芝信用金庫などに融資の申込をしたが融資を得られなかったという事実によって売買契約の解除を認めました(東京地裁平成16年7月30日判決)。

     このほか、銀行融資不可能の場合には解除になるというローン条項について、たとえ融資が承認になったとしても、借入先により承認された融資条件が、買主の返済能力を超えたものであった場合も、特約で定めた「銀行融資不可能の場合」に当たり、売買契約が無条件で解除されたとする裁判例もあります(大阪高裁平成12年6月27日判決)。

     ローン条項には様々な種類がありますが、条項の文言が明確になっていないと、トラブルの原因となります。解除の条件と効果の発生については、できるだけ具体的に売買契約書の中で定めておく必要があります。仲介業者としては、売買契約書のローン条項作成に協力する際には、できるだけ融資に関する事情を聞いておいたほうがよいと思われます。

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