賃貸相談
月刊不動産2021年11月号掲載
マンションの賃貸管理
弁護士 江口 正夫(海谷・江口・池田法律事務所)
Q
賃貸マンションの仲介と管理業務を受託しています。オーナーの方から、マンションの賃借人はマンションの管理規約に従う義務があるのかと問われています。また、この度、マンションの管理組合総会で共用部分の修繕についての議決が予定されていますが、賃借人が総会に出席して意見を陳述したいので承諾してほしいと言われています。このようなことが認められるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
区分所有建物の管理規約は、建物の専有部分を有する区分所有者に適用されますが、同時に、建物の占有者にも規約は及ぶものとされています。したがって、マンションの賃借人(占有者)に対しては同マンションの管理規約が当然に及びます。
また、区分所有法では、占有者は、一定の範囲内で区分所有者(賃貸人)の承諾を得て管理組合総会に出席し、意見を陳述する権利があるとされていますが、どのような事項についても意見陳述権があるわけではなく、法律上の利害関係がある事項についてしか意見陳述権は認められません。したがって、修繕に関する事項は賃借人には法律上の利害関係がありませんので、この場合には意見陳述を拒むことができると解されます。 -
1. マンションの管理規約の賃借人への適用
マンションの管理規約は、マンションの区分所有者に適用されることは当然ですが、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」)第46条2項は、「占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。」と定めています。その趣旨は、区分所有者は管理規約や総会の決議に従う義務があるので、区分所有者の権利の範囲内で占有する占有者が区分所有者と同様の規制を受けることは当然である、との考えによるものです。したがって、賃借人は、区分所有建物の占有者ですから、当然に管理規約に従う必要があります。
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2. 賃借人の意見陳述権
このように、マンションの賃借人は当該マンションの管理規約等に従う義務を課されますので、他方において、一定の範囲で管理組合総会において自分の意見を述べる権利(これを「賃借人の意見陳述権」といいます)が認められます。区分所有法第44条1項は「区分所有者の承諾を得て専有部分を占有する者は、会議の目的たる事項につき利害関係を有する場合には、集会に出席して意見を述べることができる。」と定めています。
(1)利害関係とは?
この法律では、賃借人が「会議の目的たる事項につき利害関係を有する場合」に、区分所有者の承諾を得て総会に出席し意見を陳述する権利があると規定しています。そこで、この場合に「利害関係」とは何かが気になるところです。例えば、マンションの修繕決議が行われる場合に賃借人は意見陳述権があるのか、管理費の増額決議の場合は意見陳述権が認められるのかという点は、これらの決議に賃借人が「利害関係」を有するといえるか否かにより決まります。(2)法律上の利害関係と事実上の利害関係
区分所有法第44条1項に定める「利害関係」とは、あくまで「法律上の利害関係」を指すもので「事実上の利害関係」は含まれないと解されています。法律上の利害関係とは、色々な考え方がありますが、ある事項が自分の法律上の権利または地位に直接影響を与える場合をいいます。事実上の利害関係とは、ある事項が自分の法律上の権利ないし地位に直接の影響を与えるとはいえない場合をいうと考えてよいと思います。
したがって、管理組合総会の決議事項が、マンションの建物やその敷地または附属施設等の使用方法、用途の制限等に関するものであれば、賃借人は、賃借権に基づく使用収益権に直接影響を受けますので、区分所有者の承諾を得て意見陳述をすることが認められます。
これに対し、共用部分の修繕等は、管理費の増額等が問題となる場合は、単に事実上の利害関係を有するのみと考えられるので、意見陳述権は認められないことになります。