法律相談

月刊不動産2014年9月号掲載

ファミレスでの購入申込み

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

知人から投資用マンションを販売している宅建業者を紹介され、一昨日、ファミリーレストランで営業担当者と面会しました。その場で物件の説明を受け、購入の申込みをしてしまいました。クーリングオフによる申込みの撤回はできるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.回答

    買主である消費者が、売主宅建業者に対して、宅建業者の事務所等以外の場所で行った申込みですから、クーリングオフによって撤回をすることができます。申込みの際、申込みを撤回できる旨および申込み撤回方法の告知を受けていたとしても、申込みの後8日を経過していないので、申込みの撤回は可能です。

    2.クーリングオフの制度

    さて最近では、株式市況の活況の影響を受けて投資物件の勧誘が盛んに行われ、軽い気持ちで、ファミリーレストランなどで投資物件を購入してしまうことも、珍しくないようです。

    しかし宅地建物は、購入金額も大きく、重要な財産です。慎重に検討することなく、一時的な感情で行った申込みについて、買主に契約上の義務を負担させることは、適切ではありません。そこで、宅建業法は、一時的な感情で購入の申込みを行い、あるいは売買契約を締結したけれども、購入申込みや契約締結の状況が冷静な判断を行うには不適当な状況だったときには、購入後一定期間、買主・申込者から通知し、申込みを撤回し、あるいは契約の解除をすることを認めています。これがクーリングオフの制度です(宅建業法37条の2第1項はしら書き前段)。

    クーリングオフは、感情的な高ぶりを冷ますことを意味する「cooling-off」という英語に語源のある用語です。

    クーリングオフの制度は、消費者保護のための重要な仕組みであり、様々な商品の購入について、採用されています。宅地建物取引でも、かつて購入者の自宅や旅行先などの不安定な状況のもとで取引が行われ、苦情や紛争が多発したことがあり、そのため昭和55年に宅建業法が改正され、制度が導入されました。

    3.要件と適用除外

    (1)当事者と要件

    宅建業法上、①宅建業者自らが売主、宅建業者ではない者が買主となる売買契約について(当事者と契約種類の要件)、②申込みや契約が、宅建業者の事務所店舗以外の場所においてなされた場合(場所の要件)に、クーリングオフの規定が適用されます。賃貸借契約には適用がなく、また売買契約であっても、売主が宅建業者ではない場合、あるいは売主と買主の両方が宅建業者である場合には、適用されません(同法78条2項)。宅建業者の事務所店舗以外の場所とは、申込者・買主の自宅や勤務先、旅行先や飲食店などを意味します。

    (2)3つの適用除外

    次の場合、クーリングオフの規定適用は除外されます。

    ①適用除外1:申込者・買主から申出があった場合。自宅または勤務場所で契約に関する説明を受ける旨を申し出た場合には、自宅または勤務場所には適用されません(同法施行規則16条の5第2号)。

    ②適用除外2:申込者・買主が、クーリングオフができる旨およびクーリングオフを行う方法を告知された場合において、告知日から8日を経過したとき(同法37条の2第1項1号)。告知がなければ、8日の期間は開始せず、申込みや契約から8日が経過した後にもクーリングオフの権利行使が可能です。

    ③適用除外3:買主が、宅地または建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払ったとき(同法37条の2第1項2号)。売買契約が決済されて終了した場合にまで契約解除を認めるのは、取引の安全を害すると考えられ、例外とされています。

    4.クーリングオフの権利行使

    申込み撤回や契約解除の通知は、書面によって行う必要があります。契約解除・申込み撤回は、書面を発した時に、その効力を生じます(同法37条の2第2項)。

    クーリングオフの権利行使がなされた場合、売主宅建業者は損害賠償または違約金の支払を請求することはできません(同法37条の2第1項後段)。申込み撤回・契約解除が行われた場合には、速やかに手付金などを返還しなければなりません(同法37条の2第3項)。

    5.不動産取引のIT化とクーリングオフ

    「IT利活用の裾野拡大のための規制制度改革集中アクションプラン」(平成25年12月20日IT総合戦略本部決定)において、不動産取引における重要事項説明や契約書面(37条書面)のIT化が検討課題とされ、現在、「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」で、不動産取引のIT化について、議論がなされています。不動産取引にITを利用するとした場合に、クーリングオフに関し場所の要件がどのように取り扱われるのかなども注目されます。

page top
閉じる