賃貸相談

月刊不動産2006年2月号掲載

テナントによる解約予告の撤回

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

当社はA社に当社所有ビルをオフィスとして賃貸しましたが、A社から6か月の解約予告通知が届きました。ところが、3か月後にA社から解約予告は撤回すると通知してきました。撤回は有効なのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 賃貸借契約の解約予告

     建物賃貸借契約を締結している場合に、テナントが賃貸借契約を解約しようとして解約予告を通知してくることがよくあります。しかし、テナントは賃貸借契約をいつでも自由に解約できるわけではありません。このような場合には、まず、解約予告が有効なものかを確認することが必要です。

     賃貸借契約期間中にテナントが賃貸借契約を解約できるか否かは、その賃貸借契約が期間の定めのない賃貸借契約であるのか、期間を定めた賃貸借契約であるのかによって結論が異なります。

    (1) 期間の定めのない賃貸借契約の場合
     民法617条では、「当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。」と定めています。つまり、賃貸借契約において契約期間を定めなかったときは、当事者はいつでも賃貸借契約の解約申入れができるとされているのです。そして、建物賃貸借の場合には解約申入れのときから3か月をもって賃貸借契約は終了すると定められています。なお、「各当事者は、いつでも解約を申入れることができる。」との規定からすれば、賃貸人も、いつでも賃貸借契約を解約できるかのように読めますが、この点は借地借家法により修正されており、賃貸人が解約申入れをするには、借地借家法に定める正当事由を具備することが必要とされています。また賃貸人が正当事由を具備して解約申入れをする場合には、申入れから6か月を経過しないと賃貸借契約は終了しないものとされています。

     いずれにせよ、契約期間を定めなかった賃貸借契約の場合に、テナントは解約申入れができるとされているのです。実務上、賃貸借の期間を定めずに契約することは稀です。期間を定めない賃貸借に該当するのは、当初、期間を定めていた契約であったものが、その後、更新の合意をせずに法定更新となったケースがほとんどといえると思います。

    (2) 期間を定めた契約の場合
     他方、民法618条は「当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは前条の規定を適用する。」と定めています。
     これは、契約期間を定めて契約した以上、原則として契約期間内に解約申入れすることはできないということが前提となっています。ただし、賃貸借契約にわざわざ契約期間内であっても解約申入れをすることができるという条項を設けていれば当事者は解約申入れをすることができるということです。一般に「期間内解約条項」といわれるものがこれに当たります。

    2. 解約予告の撤回の可否

     賃貸借契約に期間内解約条項が定められている場合にはテナントからの解約予告は有効です。したがって例えば6か月の予告をもって賃貸借契約を解約するとの通知がなされれば、解約予告通知の効果として、賃貸借契約は6か月の経過をもって終了することになります。

     しかし、実際には先に通知した解約予告を撤回したいとの申入れがテナントからなされることが少なくありません。商売不振のテナントが6か月後に撤退する予定で解約予告をなし閉店セールを行ったところ、予想外に客が押し掛け、閉店はもったいないと考えて解約予告を撤回するケースなどが考えられます。

     借地借家法では賃借人の借家権は手厚く保護されているとされていますが、民法では、契約の解除の意思表示については取り消すことができないと定めているのです(民法540条2項)。解除の意思表示がなされた以上は、賃貸人側も新たなテナントを探すことになりますが、新テナントを確保した後に、前テナントからの解約申入れの撤回が有効であるとすると、賃貸人は契約解除が確定するまで動きがとれなくなってしまいます。したがって、解除の意思表示は撤回することができないとされているのです。もっとも、賃貸人の側がテナントの解約予告の撤回を認めて引き続き賃貸するということ自体は何ら民法540条2項で禁止されるものではありません(最高裁昭和51年6月15日判決)。

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