賃貸管理ビジネス
月刊不動産2021年10月号掲載
「なぜなぜ分析」を用いて、空室要因を明確にせよ
今井 基次(株式会社ideaman 代表取締役)
Q
空室が出ても比較的早い段階で次の入居者が決まっていた優良エリアにおいて、以前に比べ客づけが悪くなってきています。管理戸数が多いため、空室が増えると現地への巡回も後まわしになり、募集活動が後手後手になります。空室対策を有効に進めていくには、どのような方法があるのか教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
空室物件には、「空室の原因」が存在します。その原因を特定するには「物件の現地」へ行かなければ、本当の問題を特定できません。そして、その空室物件とライバル物件を比べて、何が優っていて、何が劣っているのかを特定しましょう。管理会社の最大のミッションは「入居率」を高めることに他なりません。入居を決めなければ、家賃も生まれず、管理会社への管理料も発生しないのです。
空室を決めるためには、まず、空室の4大要因から「なぜなぜ分析」を用いて、真の空室要因を特定しましょう。 -
1. 空室が増えている現状で、管理会社から提案ができているか
最近、地方都市で空室物件が目立つようになってきました。郊外エリアだけでなく、街中の比較的決まりやすいとされていたような物件でも空室が増えています。もちろんコロナ禍で「法人需要の減少」「実家に戻る」などの影響での空室増加もあるのでしょうが、その前に需要以上に賃貸住宅の供給は増え続けていますから、空室が増えていくことは至極当然といえます。
物件の動きが鈍くなると、管理会社の変更というオプションを選択するオーナーも増えてきますが、一般的に管理戸数が多い大手ほどブランド力が強く、大手に任せたら安心という感覚が強いようです。しかし、フタを開ければ「以前任せていたところよりもひどい」ということが多々あるようで、早期に決めてもらうはずが逆効果だったという話もしばしば聞きます。大手は、安心感はありますが、管理戸数が多いほど、空室率が上昇すれば空室数も増えます。その結果、業務がまわらず、空室物件の巡回すらできていないということになるのです。しかし、現地に行かなければ、空室改善の手がかりすらつかめません。 -
2. 現地で問題点を抽出
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3. なぜなぜ分析
原因の解明、いわゆる「空室要因分析」が重要です。空室要因は物件によりさまざまですが、大きくは「内部環境(物件自体の問題)」、「外部環境(物件を取り巻く市場)」、「管理会社」、「オーナー」の4つのカテゴリーに分類できます。
例えば、「物件の共用部分が汚い」という問題があったとすると、これは「内部環境(物件自体の問題)」にカテゴライズされます。しかし、本当の分析はここからです。
トヨタのカイゼン※でも有名な「なぜなぜ分析」は、問題の原因を探って、抽出した問題点を「なぜ?」の視点からひとつひとつ掘り下げていくことで根本治療を行う方法です。そうした掘り下げをすることで、問題の原因と対策が可視化されることになるのです。※ トヨタ自動車による業務改善の施策。現場の作業者がボトムアップで業務内容やプロセスなどを見直し、問題解決を図っていく。
たとえば、先ほどの「物件の共用部分が汚い」という問題について、「それはなぜか?」という問いを繰り返していきます。「物件の共用部分が汚い」→なぜか? 「以前から汚れているから」→なぜか? 「定期清掃をしていないから」→なぜか? 「費用がかかるから」→なぜか? 「共用部分の美観が成約率に大きく影響を及ぼすことを知らなかった」……こんな具合です。
もちろん、空室の要因がひとつだけということはほぼなく、大抵は複数の要因が相互に関係しあって「空室」という結果を生み出しています。それぞれの要因の根本を突き詰めなければ問題解決に至らない以上、管理会社がどのようにオーナーに提案をしていくのかがカギとなります。入居者目線で考えれば、最終的に「コスパ」で判断するため、より条件の良い、自分のライフスタイルに合った割安物件が最適なわけです。そのことを踏まえ、ライバル物件と比べていかに優位性を出せるのかが重要なわけです。
まずは管理会社が現地に足を運び、空室の原因を特定し、改善提案を行う。管理会社としては基本ですが、当たり前のことをせずに満室稼働をさせることは容易ではありません。