法律相談

月刊不動産2026年6月号掲載

リースバックにおける売買契約の消費者契約法による取消し

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

 私は73歳です。自宅マンション(37㎡)を所有していましたが、売った後もそのまま住み続けられるし、買主から月10万円ずつもらえると説明を受け、宅建業者に売買代金500万円で自宅を売却しました。しかし自宅の実際の価値は時価2,500万円で、しかも私が賃借人として賃料を支払うという定期借家契約にも署名・捺印してしまいました。私は売買契約を取り消すことができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  売買契約を取り消すことができます。売買代金の額、および定期借家に伴う退去義務という極めて重要な事項について、事実と異なることを告げられて事実を誤認し、売買契約を締結しており、消費者契約法に基づく売買契約の取消しが認められるからです。

  • 消費者契約法による取消し

     消費者契約法には、消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、重要事項またはその重要事項に関連する事項について消費者の利益となる旨を告げ、かつ重要事項について消費者の不利益となる事実を故意または重大な過失によって告げなかったことにより、事実が存在しないとの誤認をし、それによって消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができると定められています(消費者契約法4条2項本文)。
     近年、リースバックの仕組みが広まっていますが、リースバックにおける売買契約については、多くのトラブルが発生しています。以下、重要な事項について誤認があったとして、消費者契約法による取消しが認められたケースを紹介します(東京地判令和5.11.27LLI07831653)

  • 東京地判令和5.11.27

    1.事案の概要
     (1)Xは、高齢(73歳)の年金生活者の女性である。自宅はマンションの一室(37㎡/以下「X宅」)であり、自らが所有していた。週3回腎臓透析を受けながら、自宅にバリアフリー工事を施すなどして生活していた。Y社は宅建業者である。
     (2)Xは、令和3年5月23日、X宅を代金500万円でY社に売却する旨の売買契約を締結した(本件契約)。売買契約締結に際しては、Y社の従業員から、X宅を売却すると、売却代金を取得できるうえ、これまでと同様に居住したままで月10万円を受け取ることができる、マンションの管理費はY社が支払う、と説明を受け、売買代金が500万円では安すぎるのではないかと思いつつも、頭がぼうっとしていた状態で、手付金100万円を受け取り、契約書に署名・捺印したものであった。
     (3)その後Xは、同年6月3日、残代金のうち290万円を受領し、さらにY社に求められるがままに、賃貸人Y、賃借人Xとして、契約期間令和3年7月1日から令和4年5月31日まで、更新なし、月賃料10万円とする「居住用建物賃貸借契約書 (定期)」および「定期賃貸住宅契約についての説明」と題する書面にそれぞれ署名・捺印した。なおX宅は、別の宅建業者の査定額では2,300万円を、類似物件から推定される価格相場は2,500万円をそれぞれ超えており、固定資産税評価額も2,900万円を超えていた。
     Y社は同年7月12日、A社に対して、1,600万円でX宅を転売した。
     (4)Xは、消費者契約法4条2項の誤認により、X宅について2,110万円( 時価2 , 5 0 0 万円から受領済みの390万円を差し引いた額)の損害賠償をYに求め訴訟を提起した。
     (5)判決では、Xの請求が認められた(図表)。

     

    2.裁判所の判断
     『X宅の査定額は2,300万円を超えている上、類似の物件の推定価格相場が2,500万円、固定資産税評価額も2,900万円を超え、Y社がA社に対して現状有姿で売却したX宅の代金も1 , 6 0 0 万円にのぼるところ、Y社の従業員らは、Xに対し、X宅に居住しながらも月額10万円の支払いが受けられるだけでなく、管理費等はY社が支払うなどという現実にはあり得ない説明をした上で、X宅の時価相場から著しく乖離した500万円をX宅の代金とする旨の売買契約書を示すほか、Xが自宅であるX宅から1年以内に退去しなければならない内容の定期賃貸借契約の契約書に署名・捺印をさせており、これに対して、Xは、X宅に居住しながらも月額10万円の支払いが受けられ、かつ、X宅の代金として500万円がもらえるものと認識し、本件契約に関する不安を抱きつつも、X宅に関する定期賃貸借契約の内容や意味を全く理解していなかった。
     そうすると、Y社は、本件契約の売買代金およびこれに付随する定期賃貸借契約に伴うXの退去義務という極めて重要な事項について、事実と異なることをXに告げ、Xは、告げられた内容が事実であると誤認して本件契約に応じたということができるし、Y社の従業員らの説明が現実にはあり得ないものであったとしても、Xの属性や生活状況やY社の勧誘方法の悪質性に照らすと、Xに重過失があるということもできない。
     したがって、Xは、本件契約を誤認により取り消すことができるというべきである』。

今回のポイント

●事業者が、重要事項またはその重要事項に関連する事項について消費者の利益となる旨を告げ、かつ重要事項について消費者の不利益となる事実を告げなかったことにより、消費者が、事実が存在しないとの誤認をし、それによって消費者契約を締結したときは、消費者は、消費者契約法によって、契約を取り消すことができる。
●自宅(マンション、戸建て住宅)を売却する契約と同時に、その不動産の賃貸借契約を結んで、その後は家賃を払いながら同じ家に住み続けるというのが、住宅のリースバックである。
●近年、リースバックを巡るトラブルが増加している。東京地判令和5.11.27では、リースバックにおける売買契約について、重要な事項について誤認があったとして、消費者契約法による取消しが認められた。

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