税務相談

月刊不動産2003年8月号掲載

30年以上前から借地に自宅を建てて住んでいます。

0 井出 真(井出真税理士事務所)


Q

30年以上前から借地に自宅を建てて住んでいます。地主さんから、借地権と底地の一部を交換し、土地を半分返してくれないかと相談されています。交換時に借地の一部譲渡として譲渡所得が課税されるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  交換も譲渡として譲渡所得課税の対象となります。ただし、「固定資産の交換の特例」を使えば、譲渡がなかったものとされます。
     まず、借地権と底地の一部を交換し、それぞれ完全所有権(借地権の付いていない所有権)にする仕組みを次図で説明します。

    (図)
     
     
     甲氏の借地権の一部A’と、乙氏の底地の一部B’を交換します。それにより、甲氏はA+B’、乙氏はA’+B部分の完全所有権を持つことになります。
     固定資産の交換の特例は、所得税法58条、法人税法50条に規定がありますが、どちらも次の要件をすべて満たすことが必要となります。

    (1)交換する譲渡資産、取得資産の要件

     ①固定資産であること

     ②同種の資産であること

     ③1年以上有していたものであること

    (2)交換後の要件

     交換取得資産を交換譲渡資産と同一の用途に供していること

    (3)価額要件
     差額がいずれか多い価額の20%相当額以内であること

     まず、(1)の要件ですが、①甲氏の借地権と乙氏の底地はどちらも固定資産です。例えば、交換の相手方が不動産業者で、かつ、交換により取得する土地が棚卸資産である場合の交換では、特例は使えません。つまり、不動産業者が持っている商品としての土地・建物との交換では、通常の譲渡所得が課税されるということです。次に、②土地は土地どうしの交換でなければ使えません。借地権と底地は、どちらも土地に関する権利ですから同種の資産です。土地と建物との交換では、特例は使えません。③甲氏は30年以上前から借地権を有していますし、乙氏もそれ以前から土地の所有権を有しています。当然1年以上有していたものとされます。④の要件も満たしています。次に、(2)の要件ですが、交換後に地主である乙氏が、交換で取得した土地をすぐに譲渡してしまった場合はどうでしょうか。その場合でも、甲氏は残りの土地にある住宅に住み続ければ、この特例が使えます。ただし、乙氏はこの特例は使えません。また、(3)の要件ですが、借地権と底地を等価で交換すれば、差額はないので問題は生じません。
     交換時には譲渡がなかったものとされる、ということは、自宅の敷地は借地権の取得費を引き継ぐ、ということです。将来、自宅を譲渡するときに、譲渡収入金額から控除できる取得費は、当初借地権を取得したときの取得費となります。つまり、借地当初の権利金の額か、譲渡収入金額の5%(概算取得費)です。例えば、30年前に800万円の権利金を支払い借地したとします。その借地権の時価が2,000万円であるとし、その半分(50%)を底地と交換したとします。譲渡費用がなかったものとすると、本来ならば譲渡益は次のように計算されます。

     1,000万円-400万円=600万円

    (注)1,000万円、400万円はそれぞれ2,000万円、800万円の50%

     この譲渡益は値上がり益であり、本来、長期譲渡所得として100万円の特別控除後に課税されます。しかし、この特例により譲渡所得課税はされないこととなります。したがって、甲氏が取得する底地部分(B’)の取得費は400万円となり、交換前から借地部分(A)の取得費400万円(800万円×50%)と合わせて800万円となります。つまりこのケースでは、交換前の借地権と交換後の完全所有権の取得費は、800万円で変わらないことになります。
     最後に、交換比率です。土地を半分返すということなので、交換比率は50:50です。仮にこの地域の相続税路線価における借地権割合が60%であった場合、10%相当分が甲氏から乙氏への贈与とみなされるでしょうか。結論的には、甲氏と乙氏との関係が、親族等の特殊関係でない限り問題は生じません。

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