法律相談

月刊不動産2016年10月号掲載

消費者契約法改正

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 )


Q

 最近、消費者契約法が改正されたと聞きました。どのような改正内容なのでしょうか。また、私たち宅地建物取引業者にどのような影響があるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     平成28年5月に消費者契約法が改正されました(同年6月3日公布)。改正された内容は、( 1)過量な内容の契約についての取消権、(2)不実告知取消権における重要事項の追加、(3)取消権を行使した場合の返還範囲の制限、(4)取消権の行使期間の伸長、(5)不当条項の拡大、(6)10条無効の例の条文化です。適正な取引を行っている宅建業者の日常業務に直接に影響するものはありませんが、改正内容のポイントは、理解が必要です。

  • 消費者契約法の概要

     消費者と事業者の間には、取引のための情報の質と量や交渉力において、構造的に格差があります。消費者契約法は、この格差に着目し、事業者が消費者を誤認・困惑させた場合に契約の申込み・承諾の意思表示を取り消すことができ(消費者契約の取消し)、また、事業者の損害賠償の責任免除条項その他の消費者の利益を不当に害する条項(不当条項)の全部または一部を無効とする(消費者契約の無効)法律です。平成12年4月に制定され、平成13年4月に施行されています。

     ―消費者契約の取消しが可能となるのは、①から④の場合です。① 不実告知(不実告知の対象は、契約の目的物に関する重要事項)②断定的判断の提供③不利益事実の不告知④不退去・退去妨害─消費者契約の無効(不当条項の無効)には8条無効、9条無効、10条無効の3つの種類があります。① 8条無効 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害賠償責任の全部免除など② 9条無効 損害賠償の予定額、違約金の合算額が、事業者に生ずべき平均的な額を超える場合の超過部分③ 10条無効 民法、商法等の任意規定の適用による場合と比べ消費者の権利を制限する条項であって(10条前段要件)、信義則に反して消費者の利益を害するもの(10条後段要件)

  • 消費者契約法の平成28年改正について

     消費者契約法は制定後、16年が経過しました。この間、高齢化の進展やネット取引の普及など、大きな社会経済情勢の変化がありましたが、消費者契約の取消し・無効に関する条項は、改正されていませんでした。

     そこで、平成28年5月、新たな社会経済情勢に対応するべく、消費者契約法が改正されました(以下、「平成28年改正」という)。改正法は、平成29年6月3日に施行されます。平成28年改正の内容は次のとおりです。

     

    (1) 過量な内容の契約についての取消権付与

     近年、高齢者の判断能力の低下等につけ込んで、大量に商品を購入させるなどの被害が生じていたため、消費者が通常必要とする分量、回数、期間を著しく越える契約をした場合、その勧誘をした事業者がその過量の事実を知っていたときには、取消しを可能としました(新第4条第4項)。特定商取引法第9条の2によって訪問販売だけに認められていた過量販売解除権が、消費者契約一般に広げられたものです。不動産の売買や賃貸借でも、老夫婦に対して日常生活にはまったく必要のない著しく広い床面積の建物を居住用に売却したり賃貸したりすると、取消事由に該当しうることになります。

     

    (2) 不実告知取消権の重要事項の追加

     不実告知取消権の重要事項について、契約の目的物に直接には関係しない事項に関する不実告知にまで、その範囲が拡大されました(新第4条第5項第3号)。「床下が湿っており、このままでは家が危ない」といわれて、床下への換気扇の購入・設置の契約を締結した場合や、「土地の周辺に新しい道路が通る」といわれて、土地の測量契約を締結した場合などが、この新たな取消事由に該当します。

     

    (3) 取消権を行使した場合の返還義務の制限

     消費者が取消権を行使した場合の返還義務について、原状回復の範囲を現存利益に制限する定めが設けられました(新第6条の2)。

     

    (4) 取消権の行使期間

     消費者が取消権を行使することができる期間が6か月から1年に伸張されました(新第7条)。

     

    (5) 不当条項の範囲の拡大

     消費者の解除権を放棄させる条項が無効とされました(新第8条の2)。事業者に債務不履行があっても消費者は解除をすることができないなどの条項が、無効となります。

     

    (6) 消費者の不作為を申込みと扱う条項を10条無効の例として条文化

     10条において「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」が不当条項となるとする例示が追加されました(新第10条)。

     

    法律相談①

  • Point

    • 消費者が通常必要とする分量、回数、期間を著しく越える契約+事業者がその過量の事実を知っていたとき→取消し可能
    • 契約の目的物に直接には関係しない事項のうち、消費者の重要な利益についての損害・危険を回避するために通常必要であると判断される事情についての不実告知→取消し可能
    • 消費者の解除権を放棄させる条項→無効
    • 消費者の不作為をもって契約の申込み・承諾の意思表示をしたものとみなす条項→無効(例示)
page top
閉じる