法律相談

月刊不動産2021年1月号掲載

決済期日が延期された場合のローン条項の効力

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

私は、自宅の土地建物を売却しました。売買契約には、買主が融資を得られなければ売買は当然に解除されるというローン条項が付いていたところ、買主から融資が得られなかったので決済期日を延期してほしいと要望があり、了解しましたが、その後3カ月経過しても未決済です。売買代金の不払いを理由として契約を解除できるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 回答

     売買代金の不払いを理由として契約を解除することができます。決済期日延期の合意に伴って、ローン条項の効力は失われたものと考えることができます。

  • 2. ローン条項

     戸建住宅やマンションの購入にはローンの利用が一般的です。しかし、金融機関の審査によりローンが承認されないと、購入者は代金を支払うことができません。そこで、ローンを利用する売買では、多くの場合に、ローン条項が定められています。ローン条項とは、ローンの承認を得られなかったときには、購入者が損害賠償などの不利益を負うことなく、契約解除によって契約を終了させることができるという特約です。ローン条項には、融資を得られなかった場合には当然に契約解除となるタイプ(当然解除型)と、融資を得られなかった場合には買主が解除の意思表示をすることができると定められるタイプ(解除の意思表示必要型)があります。
     当然解除型のローン条項が定められていた売買において、決済期日が延期されたことから、ローン条項の効力が失われたと判断されたケースが、東京地判令和元6 . 1 1(WLJPCA06118007)です。

  • 3. 裁判例

    1 事案の概要
    (1)売主Xと買主Yは、平成30年2月1日、売買代金9,800万円、手付金100万円、違約金10%、決済予定日同月28日として、土地建物(本件土地建物)の売買契約(本件契約)を締結した。本件契約には、同月27日までに、Yが融資の承認を得られない場合には、契約は自動的に解除となるという特約(融資解除特約)が付されていた。なお、本件契約は、本件土地建物の所有権をYの指定する者に対し直接移転するという第三者のためにする契約であった。
    (2)本契約締結後、融資の申込みについて金融機関の承認を得られなったことから、Yは、Xに、3回にわたって決済期日の延長を求め、Xはいずれの求めについても了解した。3回目に延期された決済期日は平成30年5月末日であったところ、結局同日までに融資を得ることもできなったので、Yは、さらに決済期限を同年6月末日まで延長することをを求めたが、Xはこれを拒んだ。
    (3)Xは、同年6月8日、債務不履行を理由に解除をするとの意思表示を行い、Yに対して、違約金の残額880万円を求め(違約金は980万円であり、そのうち100万円については手付金を充当)、訴えを提起した。Yはこれに対して、融資解除特約の効力を主張し、Xの主張を争った。裁判所は、融資解除特約は効力を失ったとして、Xの主張を認めた。

    2 裁判所の判断
     『思うに、融資解除特約は、買主が金融機関から融資の承諾が得られなかった場合に、買主が何らペナルティを支払うことなく契約を解除することができるという特約であり、融資解除特約を行使されると、売主は売却の機会を失い、別の顧客を見つけなければならなくなるのであり、融資解除特約が売主にとって不利益な特約であることは明らかである。
     そうすると、本件のように、買主の都合により決済期限が延長された場合に、融資解除特約の期限も同様に延長されるかどうかについては、改めて、売主から明確な合意があったといえる場合でなければ、融資解除特約については効力を失うとみるのが相当である。特に本件のように、決済期限が1度のみならず、2度、3度と延長されている場合は、このように解するのでなければ、売主であるXが一方的な不利益を被り続けることになる。
     これを本件についてみれば、決済期限の延長については、Xは合意しているものの、融資解除特約については特に承諾を与えているとみることはできないし、融資解除特約についても延期することを前提にした行動をXがとっていたと認めることもできない。したがって、本件においては,融資解除特約については、決済期限が2月28日から3月30日に延期された際に、その効力を失ったと解するのが相当である』

  • 4. まとめ

     ローン条項は、法律上その要件効果が明記されているものではなく、契約の取決めによって認められる仕組みです。そのために、ローン条項をめぐるトラブルは後を絶ちません。宅建業者は、売買契約書にローン条項を定めることを提案する場合には、その文言を慎重に選択する必要があります。本稿で紹介した裁判例は、第三者のためにする契約という特殊な契約形態ですが、ローン条項の解釈を考えるにあたっては、参考になるものと考えられます。

今回のポイント

●ローン条項は、金融機関からローンの承認を得られなかったときに、購入者が損害賠償などの不利益を負うことなく、契約解除によって契約を終了させるという特約である。
●ローン条項には、融資を得られなかった場合に当然に契約解除となるタイプ(当然解除型)と、融資を得られなかった場合には買主が解除の意思表示をすることができると定められるタイプ(解除の意思表示必要型)がある。
●当然解除型のローン条項が付いていた売買において、決済期日が3回にわたって延期さた場合は、ローン条項が失効しているとされた事例がある。
●宅建業者は、売買契約書のローン条項案を作成するにあたっては、その文言を慎重に選択しなければならない。

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