賃貸相談

月刊不動産2007年8月号掲載

借家人の不適切な使用に対する対処

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

アパートの2階に入居している夫婦が深夜2時ころに刃物を持ち出して大喧嘩(げんか)をしたり、室内で飲酒し大騒ぎする等、他の居室からクレームが出ています。賃貸借契約の解除は可能でしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.使用目的と使用方法

    (1) 居住用賃貸アパート等の使用目的

     居住目的の賃貸アパートやマンションは、使用目的は住居としての使用ということになります。住居目的で使用するということは、日常生活において人が起居する空間を提供するものですから、住居としての平穏が維持されることは賃貸借契約の目的からしても当然に要請されることになります。

     したがって、入居した夫婦が深夜に刃物沙汰を起こしたり、飲酒して大騒ぎをすれば、同じアパートの住民からクレームがくるのは当然のことと思われます。

     しかし、このことから直ちに、上記の行為が使用目的に反するといえるかというと、必ずしもそうとは言い切れません。「使用目的」に反するとは、「住居」としての使用目的に反するということですが、この夫婦は貸室を住居以外の目的、すなわち店舗として使用したとか、事務所として使用したというわけではありません。使用目的自体は、あくまで「住居」として使用しているわけですから、このような状態をもって使用目的違反であると断定することは困難です。

     むしろ、この夫婦は使用方法が適切ではないのであって、いわば使用方法違反になるか否かが問題になるというべきでしょう。

    (2) 使用方法の違反

     先にも述べたように、住居目的で使用するということは、その使用方法も住居の平穏を維持するという観点からある程度限定されることになります。

     問題は、何をもって、使用方法の違反であるといえるかということです。「使用目的」については賃貸借契約書に定められている場合が多いため、何が使用目的違反になるかは比較的分かりやすいのですが、「使用方法」については賃貸借契約では定めていない場合が多く、この点が不明確です。特に、貸室内での夫婦喧嘩は一般的にもあり得ることですから、夫婦喧嘩があれば使用方法違反であるということは困難です。飲酒して多少の大騒ぎをすることも、入学試験に合格したとか、貸室でお祝いのパーティーを開くという場合にはある程度は許容されるものと考えられます。

     要は、使用方法違反として賃貸借契約が解除できるか否かは、最終的にはその使用方法が賃貸人との間の信頼関係を破壊するものであるか否かという信頼関係破壊理論によって決定されることになりますが、その前提として、賃借人の建物の使用方法が賃貸借契約の目的を逸脱しているといえることが必要です。

     この判断を容易にするためには、賃貸借契約書に使用方法についても合意しておくというのも有効な方策となります。例えば、

     (a)「深夜に騒音や振動を発生させて他の入居者に迷惑をかける行為」

     (b)「本件貸室内でのペットを飼育する行為」

     (c)「本件建物内で貸室の外に物品を放置すること」

    を禁止事項として定めておく、などというものです。

     例えば、使用目的を「住居」と定めている賃貸マンションで、格別にペット飼育禁止特約がない場合に貸室内でペットを飼育することは使用方法に違反しているといえるかというと、なかなか難しい問題です。これを契約の解釈にゆだねるとすると、ペットは人生においてかけがえのないパートナーであって、住居として生活する以上、当然に許容されるべきものであるとの主張もあり得ます。しかし、契約書にペット飼育禁止特約を設けることにより、これが契約で定めた使用方法の違反であることが明確となります。上記の(a)~(c)のような項目を禁止事項として定めておくことは、こうした行為を契約違反であるとして咎(とが)めることを可能にするものといえるでしょう。

    (3) 使用方法違反を理由とする解除の要件

     上記の使用方法の違反があったとしても、それが賃貸人との間の信頼関係を破壊するに至るものであることが必要です。このためには、一度や二度の喧嘩や大騒ぎではないこと、やめるように警告を発していたにもかかわらず反復継続して行われたという事実が必要になります。そのためには、警告は必ず書面で行うこと、隣室等のクレームを記録に残すことが不可欠です。

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