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6・21 建築基準法改正
建築物の安全性確保を図るために~概要と解説
― 法改正によって国民からの信頼を回復することはできるのだろうか ―
東京都建築士事務所協会 杉並支部副支部長
一級建築士 坂野 茂
昨年11月に明らかになった姉歯元一級建築士らによる構造計算書偽装事件は、マンションやホテルなど多数の建築物の耐震性に大きな問題を発生させ、多くの住民に耐震性への不安、退去や建替えに伴う経済的な負担などを与えた。この事件を境に、建築物の耐震性に対する国民の信頼は大きく揺らぎ建築界への不信感を広げることとなった。
今回の構造計算書偽装事件は、本来法令を遵守すべき立場である建築士が、職業倫理を逸脱して構造計算書の偽装を行い、その偽装の事実を元請の設計事務所、指定確認検査機関、工事施工者の誰もが見抜けなかったことからこのように多くの建物において偽装が行われる結果となってしまった。
このような状況を踏まえ、同様な事件の再発防止策を講じ、建築物の安全性に対する国民の信頼を一日でも早く回復することができるよう、建築基準法、建築士法等の法令上の問題をはじめ建築・住宅行政上の諸課題を検証し、制度の見直しに早急に取り組むことが求められた。こうしたなか、社会資本整備審議会建築分科会の基本制度部会や国土交通大臣の私的諮問機関「構造計算書偽装問題に関する緊急調査委員会」の議論などを踏まえて建築基準法、建築士法、建設業法、宅地建物取引業法の改正案が取りまとめられ、「建築物の安全性の確保を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案」が第164回国会に提出され、本年6月21日に成立し1年以内に施行予定である。
今回の改正内容は次の6項目からなっている。
① 建築確認・検査の厳格化
② 指定確認検査機関の業務の適正化
③ 建築士等の業務の適正化及び罰則の強化
④ 建築士、建築士事務所及び指定確認検査機関の情報開示
⑤ 住宅の売主等の瑕疵担保責任の履行に関する情報開示
⑥ 図書保存の義務付け等
一方で、建築士の資質、能力の向上、専門分野別の建築士制度の導入など建築士制度の抜本的な見直しや住宅の売主などの瑕疵担保責任の更なる充実、国及び都道府県、特定行政庁における監督体制や審査体制の強化と建築物のストック情報の充実といった課題については、その社会的必要性や実効性、見直しの具体的内容や方法について更なる検討が必要として、「施策の実現に向けて検討すべき課題」として中間報告において位置付けられている。社会資本整備審議会建築分科会では国民からの意見を広く募集した上で8月末をめどにこれらの最終報告を取りまとめるようである。
建築基準法・建築士法などの改正の概要
建築確認・検査の厳格化
一定の高さ以上の建築物について、指定機関による構造計算審査を義務付ける(建築基準法6条及び6条の2関係)木造で高さ13m超又は軒の高さ9m超、RC造で高さ20m超などを対象とする
上記の建物については、建築確認の審査期間を現行21日から35日に延長(最大70日まで延長可)する(建築基準法6条及び6条の2関係)
3階建て以上の共同住宅には中間検査を法律で義務付け(建築基準法7条の3~7条の4まで関係)
建築確認の審査方法、中間検査や完了検査の検査方法の指針を策定し公表する。この指針に基づき厳格な審査や検査を実施する(建築基準法18条の3関係)
指定確認検査機関の業務の適正化
損害賠償能力や公正中立要件、人員体制など指定確認検査機関の指定要件を強化する(建築基準法77条の20関係)
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指定確認検査機関に対する特定行政庁による指導監督の強化(建築基準法77条の31関係)
特定行政庁に立入検査権限を付与
指定確認検査機関に不正行為があった場合、特定行政庁からの報告に基づき指定権者(大臣又は知事)による業務停止命令等を実施する
特定行政庁に対する報告内容には、建築確認審査の実施状況などの事項を追加する
指定確認検査機関の損害賠償能力に関する情報開示を義務付ける(建築基準法77条29の2関係)
建築士業務の適正化及び罰則の強化
建築士などに対する罰則を大幅に強化する(建築基準法98条から106条まで、建築士法35条から38条まで、建設業法48条から53条まで、宅地建物取引業法79条から84条まで関係)
建築士などの業務を適正化する(建築士法20条2項、21条の2から21条の4まで)名義貸しや違反行為の指示等の禁止を法律で定め、これに違反する者の処分を強化する
免許を取り消された建築士が、免許を受けられない期間を従来の2年から5年に延長(建築士法7条関係)
建築士、建築士事務所及び指定確認検査機関の情報開示
建築士及び建築士事務所に関する情報開示を徹底する(建築士法9条2項及び10条5項、26条4項関係)処分を受けた建築士の氏名、建築士事務所の名称などを公表する
建築士事務所に所属するすべての建築士の氏名、業務実績などを情報開示する(建築士法23条の6関係)
指定確認検査機関の業務実績、財務状況などの情報開示を徹底する(建築基準法77条の29の2関係)
住宅の売主等の瑕疵担保責任の履行に関する情報開示
宅建業者に対し、契約締結前に保険加入の有無等について相手方への説明を義務付ける(宅地建物取引業法35条1項関係)
宅建業者などに対し、契約締結時に加入している保険などの内容を記載した書面を買主に交付することを義務付ける(建設業法19条1項、宅地建物取引業法37条1項関係)
図書保存の義務付け
特定行政庁に対し、確認申請図書の保存を義務付ける(建築基準法12条7項及び8項関係)
建築物の安全性確保のために講ずべき施策の概要
社会資本整備審議会建築分科会基本制度部会では、「施策の実現に向けて引き続き検討すべき課題」として位置付けられた建築士制度の抜本的な見直し、新築住宅の売主等の瑕疵担保責任履行の実効性確保、建築行政における監督体制・審査体制の強化及び建築関連情報の管理・提供体制の整備といった課題について協議を行ってきた。数回の議論を経て「建築物の安全性確保のための建築行政のあり方について」の最終報告が取りまとめられた。国土交通省は、この最終報告を踏まえ、建築士制度の見直しなど長期的な観点からの建築物の安全確保のための対策を推し進めていく考えである。
建築士制度の抜本的な見直し
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建築士に求められる資質、能力の確保等
適切な設計、工事監理業務を遂行できるだけの建築士の資質、能力の確保等を図るため、次の対策を講じる必要がある。
ア.新たに建築士になるものの資質、能力の確保
近年、構造計算や構造設計、設備設計の業務内容が高度化しており、一級建築士については、こうした専門別の業務を理解して、指示し、チェックできるだけの能力が必要となってきている。したがって、これからの一級建築士の資格付与は、こうした能力を獲得できる実務経験とその能力を確認するための試験によって厳格に判定することとすべきである。
受験資格である学歴要件については、受験希望者が、所定の学科を卒業しているかどうかではなく、建築士となるのに必要な知識等を取得可能な科目を履修しているか否かにより、判断すること。
受験資格である実務経験については、原則として建築士の独占業務である設計及び工事監理の業務に関するものとし、建築士事務所の管理建築士等に証明させることとすること。
さらに、試験内容についても、高度化・専門分化する建築設計に対応するため、見直しを行うこと。
イ.既存建築士の資質、能力の向上
現在、建築士となっているものについては、建築司法22条1項で「設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上に努めなければならない」とされているものの、昨今発生している事案を踏まえると当該努力義務規定では不十分であり、国民の生命、財産を守るために、必要な能力が維持向上されるよう具体的な措置が講じられる必要がある。
このため、建築士事務所に所属し、業務に携わる建築士については、一定期間ごとの講習の受講を義務付けることとし、講習及び受講効果を確認するための終了考査の実施により、資格取得後の新たな建築技術への対応や建築基準法令等の改正への対応等必要な能力の維持向上が図られるよう措置すべきである。
ウ.建築士であることの確認・証明
設計等を業として行う場合には建築士事務所の登録が必要であり、その旨の標識を掲示することとされているが、実際の業務を行っているものが建築士にも分かりにくいといった実態がある。こうした実態を改善し、建築士の責任を明確化し、業務の適正化を図るため、現在の建築士免許を顔写真入の携帯可能なものに変更し、業務実施時に提示義務を課し、建築主等が建築士の本人確認ができるようにすべきである。
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高度な専門能力を有する建築士による構造及び設備
設計の適正化建築設計が高度化・専門分化している実態を踏まえ、構造及び設備設計の適正化を図るため、次の措置を講ずべきである。
一定規模以上の建築物等については、構造設計又は設備設計について高度な知識及び技能を有する一級建築士(特定構造建築士(仮称)、特定設備建築士(仮称))による構造又は設備に関する設計と書の作成又は法適合性証明を義務付けること。
上記措置が確実に実施されるよう、建築確認申請時に、特定構造建築士又は特定設備建築士が自ら設計図書を作成した場合には、特定構造(設備)である旨を証する書類を、それ以外の場合には、法適合証明を確認申請書に添付しなければならないこととすること。
特定構造建築士(又は特定設備建築士)は、構造設計図書(又は設備設計図書)の作成に関し、一定以上の実務経験を有し、かつ、所定の講習を修了した者又はこれと同等と認められる者とすること。
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建築士事務所の業務の適正化
建築設計分業体制が常態化していることも踏まえつつ、業務の適正化を図るため、次の措置を講ずべきである。
事務所を管理する管理建築士について、一定の実務経験等の要件を付加するなど、その能力の向上を図ること。
建築主の信頼に応えるため、受託した設計業務又は工事監理業務の一括再委託及び当該業務の建築士事務所以外への再委託を禁止すること。
建築主が業務を委託する際に、所要の情報を得た上で委託するか否か判断ができるよう、管理建築士又は開設者が指名した建築士に、一定の事項について事前説明を行わせるとともに、その内容について書面で確認させること。
事務所の開設に対し、所属建築士への講習受講機会の付与を義務付けること。
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工事監理業務の適正化と実効性の確保
建築物の質の確保、向上を図る上で、設計と並んで重要な役割を果たす工事監理業務については、建築主と工事監理者となる建築士との間での業務内容を確認し、その適正化と第三者性などの実効性の確保を図るため、次の措置を講ずべきである。
工事監理業務として実施する内容を、業務の受託に際して説明し、書面で確認させること。
工事監理業務の内容、実施方法や建築主への報告内容等の適正化、明確化を図ること。
建築基準法上の着工届けの際に工事監理業務の契約書を添付させるなど、建築主の工事監理者の選任義務について実効性を確保するための措置を講じること。
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報酬基準の見直し
建築士事務所における業務の適正化を担保するとともに、建築主にとっても委託する設計業務や工事監理業務の報酬決定に際しての目安となるよう、所要の実態調査等を行った上で、標準的な業務量について、意匠・計画、構造及び設備の分野別に示す、工事金額ではなく延べ床面積に応じて示す、設計業務のCAD化、調査業務の増大を踏まえ業務量の見直しを行う等、報酬基準を定めている現行告示1206号について、定期的に見直しを行うべきである。
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団体による自立的な監督体制の確立
建築士や建築士事務所の団体への強制加入による監督体制の強化については、関係する様々な団体からは一の団体への強制加入や強制加入そのものへの反対意見が多いこと、新たに強制加入制度を採用することについて、憲法で保障された権利を制限するに足る理由が不十分であるとの指摘があること、また、現状の加入率が1割程度にとどまっており、直ちに強制加入させることについて十分な理解が得られる状況にないことから、当面、既存団体への加入率を向上させるため、次の措置を講ずべきである。
ア.団体による研修の実施
建築士及び設計士事務所の団体を建築士に対する研修等を実施する団体として位置付けることにより、建築士の資質、能力の維持向上を支援させ、その業務の適正化を図る。
イ.団体を通じた業の適正化の取り組みの推進
団体を通じた自律的な業務の適正化による消費者保護を促進するため、次の措置を講じる。
建築士事務所協会に苦情相談業務を行わせることとし、会員には当該業務上必要な調査への応答義務を課すこと。
建築士事務所協会以外のものに対する名称の使用を制限し、協会会員以外のものによる当該名称の使用を制限すること。
ウ.団体による登録、閲覧事務の効率的・効果的な執行
建築士や建築士事務所の登録事務や登録簿の閲覧事務については、指定登録法人の制度を設け、団体を活用することで行政事務の効率化を図る。
新築住宅の売主等の瑕疵担保責任履行のための資力確保措置
住宅瑕疵担保責任研究会においては、住宅の売主等が瑕疵担保責任履行の実効を確保するために住宅の売主に必要とされる相応の資力の確保に関して、保険、保険以外の活用可能な仕組み、故意・重過失に起因する瑕疵による損害に対する仕組み、これらの仕組みが円滑に運営されるための環境整備等の議論を行い、その基本的方向性や今後の検討課題についての取りまとめが行われたところである。今後、同研究会報告を踏まえ、具体的な制度設計の検討を進めるべきである。
保険機能を活用する場合、より多くの住宅事業者の円滑かつ安定的な制度活用を可能とするため、財団法人住宅保障機構が行っている住宅性能保障制度などの既存の住宅瑕疵に係る保険の枠組みとは異なり、すべての住宅事業者が制度を活用する可能性も想定されることを踏まえ、さらに制度の検討を進めるべきである。
また、併せて、供託等についても、瑕疵担保責任履行の実効確保の面で、保険機能とバランスをとれたものとするという観点から、具体的な検討を進めるべきである。こうした検討を行った上で、瑕疵担保責任履行の実効を確保するための相応の資力確保措置を住宅の売主等に対し義務付けるべきである。
建築行政における監督体制・審査体制の強化及び建築関連情報の管理・提供体制の整備等
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国、都道府県、特定行政庁における建築行政職員数の確保及び建築主事等の能力の向上、研修等
建築行政の体制整備については、国、都道府県及び特定行政庁において、具体的な整備プログラムを1年以内に策定・公表し、その実現に努めるべきである。また、その実効性を確保するため、特定行政庁において建築行政職員数、建築主事数等の執行体制が適切に確保されているかを国が定期的にモニタリングし、その内容を公開すべきである。
建築主事等の能力の向上、研修等については、各特定行政庁における独自の取り組みに加え、日本建築行政会議(JCPB)が中心となって、国その他関係組織の協力のもと、建築主事、確認検査員、構造計算適合判断員等に対する建築技術、特に建築構造に関する研修プログラムを毎年度継続的に実施する必要がある。
また、国においても、地方行政職員等向けの研修会等のカリキュラムの見直し、充実を図る必要がある。また、審査の適正化・円滑化が図られるよう、国は日本建築行政会議(JCOB)と協力して、審査等に係る法令の解釈・運用方針を明確化し、公開すべきである。
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建築確認・検査の特例制度の見直し
建築士が設計・工事監理を行った多数の木造住宅について構造耐力上の違法行為が確認されたことを踏まえ、建築士が設計・工事監理を行った小規模木造住宅等について構造耐力等に関する規定の審査を省略する建築確認・検査の特例制度について、これらの規定について適法性が確保されるよう適切に見直しを行うべきである。
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建築関連情報の管理・提供体制の整備
国と地方公共団体が協力して、建築物のストック情報、建築士及び建築士事務所等にかかわる各種情報等を各行政機関で共有化し、さらに必要に応じて消費者に対し情報提供できる建築行政情報の総合管理システムについて、既存のシステムも活用しつつ、整備する必要がある。その際、消費者向け閲覧情報(建築計画概要、建築士及び建築士事務所の処分情報等)と特定行政庁向け情報(違法行為若しくはその疑義に関する情報等)などに分けて検討し、これらの情報を一元的に収集・管理する必要がある。
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構造計算書に係る電子認証システムの整備
今後、国は、他制度での仕組みも参考にしつつ、構造計算書に係る電子認証システムの活用に向け、当該システムをより低コストで効率的に実施するための技術開発を推進するとともに、当該システムに対応した構造計算プログラムの性能評価等に関する共通ルールの構築等について検討すべきである。また、電子認証システムの導入に当たってはすべての設計者においてその円滑な導入が進むよう、支援スキームを検討すべきである。
法改正により耐震偽装事件の再発防止や建築物に対する国民の信頼回復は可能か?
今回の法改正で建築物の安全性に対する国民の信頼を回復することはできるのだろうか…?
今回の改正の目玉といえる、「建築確認、検査の厳格化」について考えてみる。改正後は一定の高さ以上の建物に指定機関による構造計算審査(ピアチェック)を義務付けることとなっている。これについてはシステムが有効に機能されるのであれば確かに効果があると考えられる。しかし優秀な構造技術者が全国的に不足している現状で、新設の判定機関がどれだけの人員を確保できるのか疑問であり、指定確認検査機関と判定機関との責任分担はどうなるのかといった課題もある。また、「チェック形式論理だけが先行し、構造設計の創造性を抑止してしまうのではないか…」といった懸念の声もあがっている。
指定機関による構造計算審査(ピアチェック)は、RC造で20m以下の場合は義務付けられていないが、本当にこれで問題ないのだろうか。
最高高さが20m以下でもマンションであれば6階建てや7階建てが可能である。現在建てられているマンションの多くは7階建て以下であり、耐震偽装の再発を防ぐ上での有効性については疑問であり、これでは国民の信頼を回復するには不十分であるといえる。この点を補うためか、「3階建て以上の共同住宅には中間検査を法律で義務付ける…」とあるが、中間検査を法律で義務付けしたからといって、中間検査時に偽装が見抜けるかというと、まず不可能である。耐震強度が偽装されたマンションでも中間検査はあったが、検査時に誰も偽装の事実に気がつくことがなかった。中間検査では施工上の不備は見つけることはできても、耐震強度の偽装は見抜くことができないというのが多くの専門家の見解である。
今回の改正では、建築士、建築士事務所に対する罰則が大幅に強化された。耐震基準など重大な実態規定違反の場合、現行では罰金50万円だが改正後は懲役3 年/罰金300万円(法人の場合1億円)に改正される。現行に比較したら大幅に強化された内容となっているが、耐震偽装を防止する上で十分といえるであろうか。一連の耐震偽装事件被害にあった多くのマンションやホテルなどで取壊しや再建築を余儀なくされているが、これにかかる費用や精神的な負担は多大である。ましてや地震時に強度不足が原因で建物が倒壊するようなことがあった場合、多くの方が亡くなるといったことさえ考えられる。このような重大な違反を犯しても、懲役3年、罰金300万円で済んでしまうようでは、本当に抑止効果があるのか疑問である。罰金額よりも違反を犯して得る利益のほうが多いようでは抑止力として期待できない。
また、建築士免許取消し後、現状では免許を与えない期間を2年としているが、法改正により5年に延長されることになっている。しかしこれについても効果には疑問がある。建築士事務所は一級建築士又は二級建築士が一人在籍すれば登録できるため、たとえ管理建築士が免許の取消しとなっても別の所員を管理建築士とすることで、建築士事務所としての登録は問題なくできてしまうのである。
このような建築士や建築士事務所に対する罰則強化による縛りは、建築物の安全性の確保を図る上である程度は必要であると思うが、これだけでは根本的な解決にはつながらない。姉歯元一級建築士が構造偽装を行った背景には一体何があったのかを考える必要がある。建設会社から下請け事務所のような扱いをされ、コスト圧縮の厳しい要求のもと、構造計算書の偽装に手を染めてしまったともいわれている。このようなことをなくすためには、建築士及び建築士事務所の社会的立場や存在意義の向上、業務報酬の見直しなどが不可欠であると思う。その上で建築士が国民から信頼される存在になれば、耐震偽装などといったことは決して起こることはないだろう。
今回の法改正の一つである「住宅の売主等の瑕疵担保責任の履行に関する情報開示」では、宅建業者に対し、契約締結前に保険加入の有無などについて相手方に説明することを義務付けるという改正内容となっている。この改正内容で住宅の売主などの瑕疵担保責任は確実に履行できるのであろうか? 一定の効果はあると思うが、瑕疵担保責任を確実に履行するためには、「説明義務」ではなく「加入義務」が必要ではないだろうか。
一連の構造計算書偽装事件により失われた国民の信頼を取り戻すためには、今回の法改正に加え「施策の実現に向けて引き続き検討すべき課題」として位置付けられた、建築士制度の抜本的な見直し、新築住宅の売主等の瑕疵担保責任履行の実効性確保、建築行政における監督体制・審査体制の強化及び建築関連情報の管理・提供体制の整備といった課題について早急に法制化することが必要である。













