法律相談

月刊不動産2003年9月号掲載

不動産の登記には公示力はあっても、公信力がないと言われますが、どういう内容でしょうか。

弁護士 草薙 一郎()


Q

不動産の登記には公示力はあっても、公信力がないと言われますが、どういう内容でしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 【Q】
     不動産の登記には公示力はあっても、公信力がないと言われますが、どういう内容でしょうか。

    【A】
     不動産の登記簿に記載された内容に効力が生じることを公信力といいます。日本の登記制度では、記載された内容は一般的には正しいのですが、真実の権利関係と登記の記載とが異なっているときは、仮にその記載を信用しても、これを保護することができないのが原則です。つまり、登記簿の記載より真実の権利関係を優先させるわけです。

    【Q】
     例外はないのでしょうか。

    【A】
     いわゆる通謀虚偽表示のケースが考えられます。
     たとえば、土地の所有権はAであるのに、税金その他の理由でAとBが通謀してB名義に登記しておくようなケースで、BがAを裏切って、Bがその土地をCに売却してしまったようなケースです。
     この場合、Cが土地の所有者がBであると信じたときには、AはCに対して、その土地はA所有であり、Bは無権利者であるからCは所有権を取得できず、自分が所有者であるとの主張ができなくなるわけです。
     そのほか、土地に虚偽の抵当権を設定することを通謀していたのに、抵当権者が委任状などを利用して、所有権移転登記をつけてしまい、その土地が転売されてしまったようなケースでは、転買人が、これらの事実に善意、無過失であれば、転買人を保護するとされています。
     このように、虚偽の外形の作成に真の所有者が関与していたようなときには、善意、あるいは善意、無過失の第三者を保護する形で、登記に公信力が認められたと同じ結果を、判例は是認しているわけです。

    【Q】
     借地上の建物について、この通謀虚偽表示が問題となった判決があるそうですが、どんな事案なのでしょうか。

    【A】
     平成12年12月19日付の最高裁判所の判決です。事案は借地人であるAが建物を建てるにあたり、息子のB名義で建ててしまいました。その後、Bはこのことを知り、その建物にB名義の登記をつけ、抵当権を設定しました。ところが、Bが借入金の支払を怠ったため、競売申立てとなり、Cがその建物を競落しました。
     Bの父Aはそのことを知らずに、自分の借地権を地主の承諾のもとに妻Dに贈与しました。
     Dは自分が借地人と思っていたのに、C名義の建物となっていることから、その建物の収去を求めた事案です。
     AはB名義で建物を建てているということで、虚偽の外形の作出に関与していますし、Cも善意なので、建物所有権については、Aは真の所有者は自分だとはCに対しては主張できません。したがって、妻Dも本件建物がCの所有であることを否定することはできません。
     問題は、Cが建物所有者であったとしても、Aの有していた借地権も取得しているのかです。
     御存知のように借地上の建物を取得すれば、借地権も原則として取得します。
     しかし、本件ではCは通謀虚偽表示の理論で建物所有権を取得したのであって、通常のケースとは異なります。
     この点、裁判所は借地権もBに移っているような虚偽の外形の作出をAがするなどの事情のない限り、借地権もCが取得することはないとしました。
     本件では競売があり、その競売でもBに借地権がないことを前提にしたことがうかがわれるとされています。
     このように、登記制度はその表示を信頼すれば当然に保護されるものではない以上、誰が所有者であるのか、どんな権利関係が正しいのかの調査を十分することが、トラブルの防止に役立つことと言えます。法律論はトラブル救済の事後的処置と考えるべきです。

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