法律相談

月刊不動産2018年12月号掲載

配偶者居住権

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 民法が改正され、配偶者居住権という権利が創設されたと聞きました。どのような権利なのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.改正民法で制定

     相続開始時に被相続人所有の建物に居住する配偶者が、相続開始後、終身その建物を無償で使用することができる権利です。今般の民法改正により新たに定められました。施行日は未定ですが、2020年7月12日までの政令で定める日に施行されます。なお、同時に配偶者が短期間居住できる仕組みも設けられています。

  • 2.配偶者居住権

    (1)平成30年相続法改正

     2018(平成30)年7月、相続に関する民法の改正がなされました(平成30年相続法改正)。相続については、1980年以来、38年ぶりの民法の大改正となります。

     

    (2)創設

     平成30年相続法改正は、相続人と共同生活を営み、家事や介護を担ってきた配偶者の保護を1つの目的としています。この目的のために、「被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(居住建物)の全部について無償で使用及び収益をする権利(配偶者居住権)を取得する。〈一〉遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。〈二〉配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。」(改正民法1028条1項、1029条)との規定が設けられました。

     

    (3)趣旨

     従来、自宅はあるけれども、ほかにはめぼしい相続財産がないというケースでは、他の相続人に対する代償金を支払うための現金や預貯金がないために、配偶者が自宅を相続することができず、自宅を手放さざるを得ない(そのために転居を強いられる)という状況が生じることがありました。また、自宅を配偶者以外の者に相続させるとの遺言があるケースにおいて、自宅を相続した相続人から立ち退きを求められると、配偶者は立ち退かざるを得ないこととなっていました。

     しかし、高齢者が住み慣れた自宅を離れることは、精神的にも肉体的にも負担が大きく、このような事態が生じないようにする必要があります。そこで、配偶者居住権の制度が創設されました。

     

    (4)成立要件と存続期間

     配偶者居住権は、相続開始のときに居住していた配偶者に認められる権利です。①遺産分割、②遺贈・死因贈与、③家庭裁判所の決定のいずれかによって成立します(改正民法1028条1項1号・2号、1029条、現民法554条)。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には認められません(改正民法1028条1項ただし書)。なお、建物の使用は無償です。

     居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います(改正民法1031条)。

     配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間です(改正民法1030条)

  • 3.平成30年相続法改正の改正項目

    平成30年相続法改正では、ほかにも多くの改正がありました。主な改正内容は、以下の①から④となります。

    ①配偶者のための短期居住権の創設

    配偶者は、相続開始の時に無償で居住していた場合には、遺産分割終了の日と相続開始の時から6カ月を経過する日のいずれか遅い日までは、従来どおり居住することができるものとされました(改正民法1037条1項)。この配偶者のための短期居住権は、配偶者に当然に認められる権利です。

    ②遺産分割の方法の見直し

     婚姻期間20年以上の夫婦の一方である被相続人が他の一方に居住用不動産を贈与(または遺贈)したときは、その不動産は遺産分割の対象とならなくなるものとされました(持戻しの適用免除。改正民法903条4項)。

    ③相続による権利の承継の登記

     相続による権利の承継については、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分について、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないものとされました(改正民法899条の2)。

    ④自筆証書遺言の制度の見直し

     自筆証書遺言について、財産目録をパソコン等で作成することが可能となり(改正民法968条2項)、法務局が自筆証書遺言を保管する制度が新設されました。法務局が保管する自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認手続きが不要となります(法務局における遺言書の保管等に関する法律4条、11条)。

  • 4.まとめ

     不動産業者は、人々の住生活について、社会的な負託を受けている責任ある専門家です。高齢化社会のなかで、今般の相続法の改正においてさまざまな新たな制度が設けられました。不動産の専門家として、新しい制度をできるだけ早期に熟知しておくことが求められます。

  • Point

    • 平成30年相続法改正によって、配偶者が自宅に居住できる権利が創設された。
    • 遺産分割、遺贈、家庭裁判所の決定があれば、終身居住できる権利(配偶者居住権)を取得する。また、配偶者居住権とは別に、配偶者が遺産分割終了または相続開始後6カ月間自宅に居住することを認める仕組みが認められた。
    • 平成30年相続法改正では、自筆証書遺言も利用しやすくなった。
    • これまでは、財産目録まで含めて全文を自筆で書かなければならなかったが、財産目録についてはパソコン等で作成することが可能になり、また、法務局が自筆証書遺言を保管する制度も新設されている。法務局が保管する自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認手続きが不要となる。
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