税務相談

月刊不動産2015年11月号掲載

親族間で共有の宅地を分割した場合の所得税の取扱い

税理士 山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長)


Q

 私と妹は、昨年に父から相続した東京都内の土地(宅地X)を持分2分の1で共有しています。このたび、私と妹はこの宅地Xを分割し、それぞれの単独所有にしたいと考えています。単独所有にすることで、私と妹の間に土地譲渡があったとして、所得税の課税がなされるのでしょうか。

また、この土地Xの持分と、私と妹が持分2分の1で共有する神奈川県の別の土地Yの持分を交換する場合、課税の取扱いはどうなりますか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     土地Xを共有持分に応じて分割するのであれば、所得税の課税はありません。なお分割に要した費用は、分割後の各土地の取得費に算入されます。

    あなたと妹が共有する土地Xと宅地Yの持分を交換する場合、原則、あなたと妹に所得税が課税されます。ただし、一定の要件を満たす場合には、固定資産の交換に係る所得税の特例の適用を受け、譲渡がなかったものとすることができます。

  • 共有物の分割に係る所得税の譲渡所得の課税について

  • (1)共有持分の分割についての所得税の取扱い

     二以上の者が一の土地を共有している場合において、その土地をそれぞれの共有持分にて現物分割し、それぞれ単独所有の土地としたときは、判例上、共有者相互問において、共有各部分につき、その有する持分の交換又は売買が行われることであって、各共有者が取得部分について単独所有権を原始的に取得するものではないといわれています(最高裁第二小法廷判例 昭和42.8.25 判例集―民集 第21巻7号1729頁、平成26年版所得税基本通達逐条解説185頁)。したがって、共有の土地を、それぞれの持分に従って現物分割した場合、①その法律的性格に着目すれば、その共有持分の交換(譲渡)があったことになるので、その譲渡による利益について所得税が課税されるのではないかという疑問があります。

    しかし、共有関係にある一の資産を現物で分割するということは、②その資産の全体に及んでいた共有持分権が、その資産の一部(現物分割で取得した部分)に集約されただけにすぎず、資産の譲渡による収益の実現があったといえるだけの経済的実態は備わっていないということもできます。

    そこで国税庁は、国税庁は所得税基本通達33-1の6により、個人が他の者と共有している土地について、その持分に応ずる現物分割があったときには、税務上は①の考え方にはよらず、②の考え方に基づき、その分割による土地の共有持分の譲渡はなかったものとして、所得税の譲渡所得の課税関係を生じせないこととして取扱うこととしています

    なお、現物分割された土地の面積の比と共有持分との比が異なる場合がありえますが、そのような場合であっても、その分割後のそれぞれの土地の価額の比が共有持分の割合におおむね等しいときは、その分割はその共有持分に応ずる現物分割に該当することとされます(所得税基本通達33-1の6(注)2)。

  • (2)共有土地の分割に要した費用の所得税計算上の取扱い

     なお、共有の土地の分割に要した測量費用などの費用の額は、その土地が業務の用に供されるもので当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き、その土地の取得費に算入されます(所得税基本通達33-1の6(注)1)。

  • 共有物を分割して等価交換を行う場合の所得税の課税について

     東京都所在の宅地Xの妹の持分と、神奈川県所在の宅地Yのあなたの持分を交換し、宅地Xをあなたの単独所有、宅地Yを妹の単独所有とした場合は、交換する土地持分が、別の土地の持分であるため、前述(1)の②で述べたような「その資産の全体に及んでいた共有持分権が、その資産の一部(現物分割で取得した部分)に集約されただけにすぎず、資産の譲渡による収益の実現があったといえるだけの経済的実態は備わっていない」とは判断できません(行為によって経済的効果が生じている)。したがって、あなたと妹において、それぞれ宅地Xの持分と宅地Yの持分の交換(譲渡)があったものと認められることから、あなたと妹にそれぞれ所得税が課税されます。

    ただし、宅地Xと宅地Yの持分の交換において、一定の要件を満たす場合には、固定資産の交換に係る所得税の特例(所得税法58条)の適用により「譲渡がなかったもの」とみなすことができます。 

  • Point

    ○個人が他の者と共有している土地について、その持分に応ずる現物分割があったときには、税務上は、その分割による土地の共有持分の譲渡はなかったものとして、所得税の譲渡所得の課税関係を生じせないこととして取扱うこととしています。

    ○異なる二つの宅地を共有する者が、互いの持分を交換して単独所有とした場合は、共有者の間でそれぞれの持分の交換(譲渡)があったものと認められることから、共有者にそれぞれ所得税が課税されます。ただし、その宅地の持分の交換において、一定の要件を満たす場合には、固定資産の交換に係る所得税の特例の適用により、譲渡がなかったものとみなすことができます。 

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