税務相談

月刊不動産2016年7月号掲載

空き家に係る所得税の譲渡所得の特別控除の特例

山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長 税理士)


Q

平成28年度税制改正で創設された、「空き家に係る所得税の譲渡所得の特別控除の特例」について教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     相続の開始の直前において居住の用に供されていた家屋で一定のもの「(被相続人居住用家屋)又は、その相続開始直前において被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地等」を、その相続により取得をした個人が、平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に譲渡をした場合は、その譲渡に係る所得税の譲渡所得の金額について、居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除の適用が認められます。

  • 1.創設の趣旨

     「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」は、平成26年11月に国会で成立した「空家等対策の推進に関する特別措置法」の税制上の措置の一環として創設され、空き家の最大の要因である“相続”に由来する古い空き家及びその敷地の有効活用(使える空き家は利用し、使えない空き家は除却して敷地を売却する。)を、税制上の優遇措置を設けることによって促進することが目的とされています。

  • 2.被相続人居住用家屋の意義

     空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用対象となる「被相続人居住用家屋」とは、以下の①~③のすべての要件を満たす家屋をいいます。

    ①相続の開始の直前において、被相続人の居住の用に供されていた家屋であること。

    ②昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建築物を除く。)であること。

    ③相続の開始の直前において、被相続人以外に居住をしていた者がいなかった(つまり、被相続人のみが居住していた)ものであること。

  • 3.空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用を受ける譲渡の範囲

     次の(1)又は(2)に掲げる譲渡(注)をいいます。

    (1)次に掲げる要件を全て満たす被相続人居住用家屋の譲渡又はその被相続人居住用家屋とともにする、その敷地の用に供されている土地等の譲渡。

      イ.その相続の時からその譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。

      ロ.その譲渡の時において、地震に対する安全性に係る規定又はこれに準ずる基準に適合するものであること。

     

    (2)次のイに掲げる要件を全て満たす被相続人居住用家屋の除却をした後における、その敷地の用に供されていた土地等(ロに掲げる要件を満たすものに限る。)の譲渡。

      イ.その相続の時からその除却の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。

      ロ.その相続の時からその譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。

    (注)上記(1)又は(2)の「譲渡」は、次の①及び②の要件を満たすものに限ります。

     

    ①(ⅰ)被相続人居住用家屋又は(ⅱ)その相続開始直前において被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地等に係る相続の時から、その相続の開始があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの期間の譲渡であること。

    したがって、平成25年1月2日以後に開始した相続により取得した(ⅰ)又は及び(ⅱ)の不動産がこの特例の適用対象となります。(平成25年1月2日から3年を経過する日は平成28年1月1日なので、平成25年1月2日に相続により取得した(ⅰ)又は(ⅱ)の不動産を、平成28年4月1日から12月31日までに譲渡することにより、この特例の適用を受けことができます。)

    ②その譲渡の対価の額が1億円以下であること。

     

  • 4.適用を受けるための要件等

    (1)申告要件

    この特例は、譲渡をした個人の確定申告書に、地方公共団体の長等による、被相続人居住用家屋及びその被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地等が、3(1)又は(2)の要件を満たすことの確認をした旨を証する書類、その他の書類の添付がある場合にかぎり、適用されます。

    (2)適用除外

    この特例は、その譲渡の対価の額とその相続の時から、その譲渡をした日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に、その相続に係る相続人が行った、被相続人居住用家屋と一体としてその被相続人の居住の用に供されていた家屋又は土地等の譲渡の対価の額との合計額が1億円を超える場合には、適用されません。

    このため、被相続人居住用家屋及びその敷地の譲渡対価が1億円超となる場合において、その不動産を分割譲渡することによる、この特例の適用は認められないことになります。

    (3)選択適用等

    この特例は、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(相続税の取得費加算特例)との選択で適用を受けることができます。

  • Point

    • 従来の居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除は、個人が所有する自己の居住用財産を譲渡した場合に限り、適用が認められるものです。「空き家に係る所得税の譲渡所得の特別控除の特例」は、自己が居住していない家屋であっても、「被相続人居住用家屋」に該当する家屋又はその敷地の譲渡についても、一定の要件に該当するものは、特例として、特別控除の適用を認めようとするものです。
    • この特例は、相続に由来する古い空き家及びその敷地の有効活用の促進を目的として創設されたことから、適用対象となる「被相続人居住用家屋」は、昭和56年5月31日以前に旧耐震基準の下で建築された家屋であることが要件とされています。

     

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