賃貸相談

月刊不動産2021年2月号掲載

改正民法のもとでの無催告解除条項に基づく契約の解除

弁護士 江口 正夫(海谷・江口・池田法律事務所)


Q

私の所有するアパートでは、賃貸借契約書に「賃借人に債務不履行がある場合は、賃貸人は、何ら催告をすることなく契約を解除できる」と定めています。このたび、1階の賃借人が家賃を1カ月分ですが、不払いの状態です。無催告で契約を解除できるとの特約をしておけば、この特約に基づいて、賃借人が1カ月分の家賃を不払いにした場合には、催告なしに賃貸借契約を解除できるのではないかと思っています。改正民法が施行されているとのことですが、改正民法のもとでも、無催告で有効に解除できると考えてよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     賃貸借契約において、債務の不履行があった場合の契約解除は、民法541条に基づき、相当期間を定めて債務の履行を催告し、相当期間内に債務の履行がなされなかった場合に初めて契約の解除ができるとする催告解除が原則です。しかも、賃貸借のような継続的な契約の場合には、原則として3カ月分程度の賃料の不払いがあることが催告解除の要件とされています。ただし、令和2年4月1日施行の改正民法541条ただし書きでは、催告期間を経過した時点での債務の不履行部分が軽微である場合は契約の解除は認められないと規定しています。改正民法542条には無催告解除が認められる要件が列挙されていますが、1カ月分の賃料滞納はこのいずれにも該当しないと解されますので、無催告解除は認められません。ただし、1カ月の滞納でも、これにより、当事者間の信頼関係が破壊されるような場合には、例外的に解除が認められる場合があります。

  • 1. 賃料不払いを理由とする契約解除の原則

    (1)改正民法541条の催告解除の原則
     建物賃貸借契約において、賃借人が賃料を支払わなかったときは、改正民法541条は、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」と定めています。したがって、賃料の不払いの場合は、原則として、催告解除が原則です。また、賃貸借のような継続的な契約関係では、ただ単に債務不履行があるというだけではなく、その債務の不履行が当事者間の信頼関係を破壊する程度の債務不履行でなければ解除は認められないとされています。一般的には、3カ月分以上の賃料の滞納がある場合には、賃貸借契約の催告解除が有効と解されています。改正民法541条ただし書きでは、催告期間が経過したときの債務の不履行状態が軽微であるときは契約の解除はできない旨が定められています。例えば、賃料が月額10万円、3カ月分の3 0 万円の滞納があった場合に、相当期間(一般的には1週間程度と考えられる)を定めて催告し、その期間が経過した時点で、賃借人が29万5,000円を支払ってきた場合、残りの5,000円の未払いが軽微なものと判断されれば、契約の解除はできないことになります。

    (2)改正民法542条の無催告解除の原則
     改正民法の制定経過の中で、無催告解除が認められる場合があるか、あるとすれば、どのような場合に無催告解除が認められるべきかが議論され、改正民法542条に無催告解除が認められる場合が定められました。それによると、無催告解除が認められるのは、①債務の全部の履行が不能であるとき、②債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき、③債務の一部の履行が不能である場合または債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき、④定期行為の時期を経過したとき、⑤催告をしても契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなとき、の5つとしています。

  • 2. 賃料の1カ月分の不払いと無催告解除の可否

     1カ月分の賃料滞納はこの5つのいずれの場合にも該当しないと解されますので、無催告解除は認められないと思われます。そのことは、無催告解除の特約があったとしても、変わりはないと考えられます。ただし、1カ月の滞納でも、これにより、当事者間の信頼関係が破壊されるような場合には、催告をしても契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかな場合といえますので、例外的に解除が認められる場合があります。

今回のポイント

●賃料の不払いを理由とする賃貸借契約の解除は、相当期間を定めて賃料の支払いを催告し、催告期間内に賃料の支払いがなされない場合に初めて契約を解除できるとする催告解除が原則である。ただし、催告期間が経過した時点における不履行の状態が軽微な場合は、契約の解除はすることができない。
●改正民法では、一定の場合には、無催告で契約を解除できる場合が列挙されている。ただし、1カ月程度の賃料滞納は、原則として無催告解除事由には該当しない。
●無催告解除をすることができるとの特約がある場合でも、特約が無条件に有効というわけではなく、1カ月分の賃料滞納では、無催告で解除をすることは原則として認められない。
●賃借人の債務不履行が、当事者間の信頼関係を破壊する程度のものである場合は、債務の不履行それ自体により、もはや契約の目的を達するのに足りる履行が期待できないと考えられるので、改正民法のもとでも賃貸借契約を解除することが認められる。

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