法律相談

月刊不動産2017年11月号掲載

共有物分割請求

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 私は4階建てのビルを弟と2人で共有しています。私の共有持分は6分の5です。そろそろ共有の関係を解消したいと考えていますが、弟が協力してくれません。共有を解消するために、どのような方法が考えられるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 裁判による3つの判断

     訴えを提起し、共有物分割を求めることができます。裁判によって、①現物分割、②競売(売却代金を分配する)、③価格賠償による分割(1人の所有物として、ほかの共有者には金銭が支払われる)のいずれかの判断がなされます。

  • 2. 共有物分割請求

     共有物に関しては、複数の共有者が権利を有することから、所有者としての権利が制約されます。そこで、「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる」として、共有者には、共有状態を解消する権利が認められています(民法256条1項)。共有物分割の方法は、現物での分割が原則です(現物分割=①第1の方法。同法258条1項)。

     もっとも、現物分割不可または分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所が競売を命じ、売却代金を分配するという方法も定められています(競売=②第2の方法。同条2項)。

     さらに、判例理論によって、物を共有者の1人の所有にして、ほかの共有者との関係では金銭支払いによって精算するという方法も認められています。これが価格賠償による分割です(価格賠償による分割=③第3の方法)。最判平成8.10.31(判時1592号59頁)は、「共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理

    性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させる

    のが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される」としています。

  • 3.裁判例

    (1)事案

     東京地判平成26.5.22(ウエストロー・ジャパン)は、鉄骨造4階建ての小規模共同住宅事務所(ワンフロア28.4㎡)について、価格賠償の方法による分割が認められた裁判例です。

     この建物は、かつて、Aが所有していましたが、平成21年9月25日に同人が死亡したことによる相続を契機として共有となり、共有持分の譲渡を経て、Xが6分の5、Yが6

    分の1の共有持分を有する状態になっていました。

     Xは、Yに対して共有物の分割を申し入れましたが、Yが親族との間の交流がないにもかかわらず、自ら共有者として建物を管理したいなどとしてこれを拒んだことから、価格賠償の方法による分割を求め、訴えが提起されました。判決では、建物を区分所有建物として現物分割する案も検討されています。

     

    (2)裁判所の判断

     「本件建物の形状に着目すると、本件建物を物理的に現物分割することは不可能であるが、本件建物内の各区画を区分所有建物とし、区分所有建物を現物分割するとの方法での共有物分割を行うことも考えられる。この方法による分割を行った場合には、今後、本件建物を区分所有権者が区分所有法等の関係法規等に基づいて管理、使用していくことになる。

     しかしながら、Y本人尋問の結果によれば、Yは本件建物を守っていきたいとの思いを有しているのみで、本件建物の具体的な管理等やそれに伴う費用の支出等について何らの知識も理解も有していないことがうかがわれるうえ、Yは本件建物の管理等についてXらとの話し合いを行うことはできない旨明言している。このことに、Yが昭和63年以降親族とは没交渉状態であったこと及びAの遺産に係る遺産分割の経緯に照らすと、本件建物内の各区画を区分所有建物とし、区分所有建物の現物分割を行い、XとYが区分所有権者として本件建物を区分所有法に基づいて管理することとした場合には、その管理等を巡って対立が生じ、本件建物の円滑な管理等ができず、ひいては収益物件としての本件建物の価値を大きく減ずる結果となることは容易に推認できる。

     そうすると、本件建物内の各区画を区分所有建物とし、区分所有建物を現物分割するとの方法で分割を行うことは不可能ではないものの、この方法をとることは本件建物の経済的価値を大きく減ずる結果を招来する蓋然性が高いものといえ、この方法による分割を行うことは相当でない」として、Xの請求を認め、建物をXの所有としたうえで、Xが、Yに対し、125万円(建物の価値のうちYの共有持分に相当する適正価格に相当する金額)を支払うものとされました。

  • 4.まとめ

     親族間の人間関係の希薄化や相続税法の改正などを背景に、近年、共有物分割が問題となるケースが多くなっているようです。共有物分割請求というのは、特別の制度のようにみえますが、不動産の取引や管理にかかわる皆さまにおいては、多くの場面で検討をしなければならない仕組みです。この機会に、制度の概要を把握しておいていただきたいと思います。

  • Point

    • 物が共有となっている場合には、各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。
    • 共有物分割の方法には、3つの方法(①現物分割、②競売、③価格賠償による分割)がある。
    • 東京地判平成26.5.22では、ビルの共有物分割請求において、約750万円の価値を有するビルについて、6分の5の持分を有する共有者の単独所有にしたうえで、6分の1の持分を有する共有者には125万円の支払いをすることによって精算するという全面的価格賠償による分割がなされた。
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