税務相談

月刊不動産2016年5月号掲載

交換差金等の支払いを受けた場合の所得税の固定資産の交換の特例

山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長 税理士)


Q

 個人が不動産の交換取引に際して、交換する不動産の時価に差額があり、調整のためその差額に等しい金銭その他の資産(交換差金等)の支払いを受けた場合における、所得税の固定資産の交換の特例(以下「交換特例」)の取扱いについて教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     交換特例の適用を受けるためには、交換する資産どうしの時価の差額が、これら資産の時価のうち、いずれか高い方の価額の20%以内であることが必要です。また、交換により資産を譲渡する個人が、交換により取得した資産とともに時価の20%以内の交換差金等の支払いを受けた場合、譲渡資産のうち、その20%以内の交換差金等に相当する部分について譲渡があったものとして、所得税が課税されます。

  • 1. 所得税の固定資産の交換の特例の概要

    (1)特例の概要

     個人が資産の交換を行った場合は、交換も譲渡の一種であるため、交換により譲渡する資産の含み益について譲渡所得の金額として所得税が課税されます。

    ただし、個人が①1年以上有していた固定資産を、②他の者が1年以上有していた同種の固定資産と交換し、③その交換により取得した固定資産(「交換取得資産」)をその交換により譲渡した固定資産(「交換譲渡資産」)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供する場合において、④この特例の適用を受ける旨等の一定事項を記載した確定申告書を提出したときは、交換譲渡資産の譲渡がなかったものとされます。これが「交換特例」です(所得税法(所法)第58条)。

     

    (2交換取得資産と交換譲渡資産の時価の差額の要件

     交換特例の適用を受けるためには、上記(1)①~④のほか、⑤交換取得資産の時価と交換譲渡資産の時価の差額が、これらの時価のうち、いずれか高い方の価額の20%以内であることが必要です(所法第58条第2項)。差額が20%超となる交換の場合、この特例の適用はなく通常の譲渡として課税されます。その差額の調整のため交換差金等の授受が行われた場合において、交換譲渡資産を譲渡する個人が、交換取得資産とともに時価の20%以内の交換差金等を取得したときは、その者の所得税の計算上、交換譲渡資産のうち、その20%以内の交換差金等に相当する部分について、譲渡があったものとされます(所法第58条第1項かっこ書)。

  • 2. 交換時の差額が時価の20%以内と判定する際の留意点

    前記1.(2)の要件⑤の判定における留意点は以下の3点です。

    (1)2以上の種類の固定資産の交換

     土地及び建物と土地及び建物とを交換した場合、同種の固定資産の交換が要件であることから、土地は土地と、建物は建物とそれぞれ交換したものとします。この場合において、交換譲渡資産と交換取得資産とは全体としては等価であるが、土地と土地、建物と建物との価額がそれぞれ異なるときは、それぞれの価額の差額が上記1.(2)の差額に該当します(所得税基本通達(所基通)58-4)。

     例えば交換譲渡資産が1,500万円( 土地1,000万円、建物500万円)であり、交換取得資産が1,500万円(土地500万円、建物1,000万円)である場合、土地は500万円(1,000万円-500万円)の交換差額を取得し、建物は500万円(1,000万円-500万円)の交換差額を支払ったものとして、1.(2)の要件を満たすかどうかを判定します。

     

    (2取得資産のうちに用途が異なる部分がある場合

     交換により同じ種類の2以上の資産を取得した場合に、その取得した資産のうちに譲渡直前の用途と同一の用途に供さなかったものがあるときは、その用途に供さなかった資産は交換取得資産には該当せず、その資産は交換差金等になります(所基通58-5)。

    例えば、事務所として使用していた時価1,000万円の建物を交換譲渡し、時価600万円の建物と時価400万円の建物とを交換取得した場合に、時価600万円の建物は事務所の用に供し、時価400万円の建物は居住の用に供したときは、その400万円の居住の用に供した建物部分は、交換譲渡資産と同一の用途に供していないため、交換差金等になります。

    (3資産の一部を交換とし他の部分を売買とした場合

     一の資産※につき、その一部分については交換とし、他の部分については売買としているときは、当該他の部分を含めて交換があったものとし、売買代金は交換差金等に該当するものとして(所基通58-9)、上記1.(2)の要件を満たすかどうかの判定をします。

    例えば、個人Aが所有する建物X及びその敷地200㎡と、個人Bが所有する建物Y及びその敷地180㎡を交換する場合、建物Xと建物Yは等価であるものの、建物Xの敷地は4,000万円、建物Yの敷地は2,000万円であることから、個人Aは建物Xの敷地を100㎡ずつ分筆し、1筆については個人Bの土地と交換し、他の1筆については売買代金を2,000万円として売買契約を締結したとします。この場合、個人Aと個人Bとの間における土地の交換と売買は一つの行為と考えるべきであり、売買とした部分は実質的に交換差金等に相当するものと認められます。そうすると、交換とした部分の土地について1.(2)の要件を満たさない(4,000万円-2,000万円=2,000万円>4,000万円×20%)こととなり、交換特例の適用を受けることができません。

    ※「一の資産」とは、交換特例が土地(所法第58条第1項第1号)、建物(同第2号)等の資産の種類の区分ごとに適用されることから、同項各号に掲げる資産の種類の区分(すなわち、同一の資産の種類ごと)の資産をいうものと解されます。

     例えば、個人C所有の土地Rと個人D所有の土地Sとの交換契約を締結し、土地R上の個人C所有の建物Tについては個人Dに売買する旨の売買契約を締結した場合には、建物Tは土地Rとは別の種類の資産なので、交換特例の適用上、建物Tの売買代金について土地Rと土地Sとの交換契約に係る交換差金等とされることはありません(平成27年10月15日東京国税局文書回答)。

  • Point

    • 交換特例の適用を受ける交換譲渡資産及び交換譲渡資産は、固定資産であることが要件とされるので、不動産業者が販売のために所有している棚卸資産である土地や建物については、交換特例の対象になりません。
    • 交換により同じ種類の2以上の資産を取得した場合に、取得資産のうちに譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供さなかったものがあるときは、その用途に供さなかった資産は交換取得資産には該当せず、その資産は交換差金等になります。
    • 一の資産を交換と売買に分けて取引しても、売買部分は交換差金等として、交換特例の適用の有無が判定されます。
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