税務相談

月刊不動産2016年1月号掲載

中高層の買換えに係る所得税の特例の適用要件

税理士 山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長)


Q

 租税特別措置法第37条の5第1項第2号3 3 3 に規定する、「中高層の買換えに係る所得税の特例」(三大都市圏の既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための所得税の買換え特例)の適用を受けるための要件について教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     個人が一定の不動産(譲渡資産)を譲渡し、一定の期間内に一定の不動産(買換資産)を取得し、その取得の日から1年以内に事業の用または居住の用に供した場合、一定要件を満たせば本特例の適用を受けることができ、その不動産の譲渡益の全部又は一部に係る所得税の課税を繰延べることができます。

  • 本特例が利用される場面

     東京圏、中京圏、近畿圏内に土地を所有する個人が、等価交換方式(個人が土地を不動産会社に譲渡し、その土地の上に不動産会社が建築資金を負担して中高層耐火建築物等─いわゆるマンション─を建設し、土地譲渡した個人は土地譲渡の見返りに譲渡時の価額に相当するマンションの区分所有権を取得する)による土地活用を行うことがあります。

     個人がこの等価交換方式による土地活用を行う場合に、土地の譲渡に係る所得税の負担を抑えるため利用される税制が、本特例です。

  • 譲渡資産の要件

     次の(1)から(3)までの要件をすべて満たすものが、本特例の適用対象となる譲渡資産とされます。この要件を満たせば、譲渡する土地等や建物等の用途は問われません(例えば遊休地でも構わない)。

     (1)次の①~③に掲げる区域内にある土地等(土地及び土地の上に存する権利をいう。以下同じ。)、建物又は構築物で、その土地等又はその建物もしくは構築物の敷地の用に供されている土地等の上に、地上階数3以上の中高層の耐火共同住宅の建築をする事業の用に供するために譲渡をされるものであること。

     なお、この場合の「中高層の耐火共同住宅」とは、譲渡資産の取得者が建築した建築物又は譲渡資産の譲渡者が建築した建築物で、次に掲げる要件の全てに該当するものをいいます。

    ・ 耐火建築物又は準耐火建築物に該当する3階以上の構築物であること。

    ・ その建築物の床面積の2分の1以上に相当する部分が、専ら居住の用(その居住の用に供される部分に係る廊下、階段その他その共用に供されるべき部分を含む。)に供されるものであること。

    ①三大都市圏の既成市街地等

       三大都市圏の既成市街地等の範囲は、次のとおりです。

    ・ 首都圏の既成市街地(東京23区及び武蔵野市の全部、三鷹市、横浜市、川崎市及び川口市の区城の一部の区域)

    ・ 近畿圏の既成都市区城(大阪市の全部、京都市、守口市、東大阪市、堺市、神戸市、尼崎市、西宮市及び芦屋市の区城の一部の区域)

    ・ 中部圈の名古屋市の区域(旧名古屋市の区域)

     ② 首都圏整備法第2条第4項に規定する近郊整備地帯、近畿圏整備法第2条第4項に規定する近郊整備区域又は中部圏開発整備法第2条第3項に規定する都市整備区域(一定の区域を除く。)のうち、既成市街地等に準ずる区域として政令で定める区域

     ③ 中心市街地の活性化に関する法律第12条第1項に規定する認定基本計画に基づいて行われる、同法第7条第6項に規定する中心市街地共同住宅供給事業(同条第4項に規定する都市福利施設の整備を行う事業と一体的に行われるものに限る。)

     

     (2)(1)の土地等又はその建物もしくは構築物が、(1)の中高層の耐火共同住宅の建築をする事業の施行される土地の区域内にあり、かつ、租税特別措置法第37条の5第1項第1号(特定民間再開発事業による地上階数4以上の中高層耐火建築物の建築の場合の買換え)の適用対象となる資産以外のものであること。

     (3)棚卸資産又は雑所得の基因となる土地等ではないこと。

  • 買換資産の要件

     本特例の適用対象とされる買換資産は、前述(1)の事業の施行により、その土地等の上に建築された耐火共同住宅(その耐火共同住宅の敷地の用に供されている土地等を含む。)又はその耐火共同住宅に係る構築物とされます。

  • 買換資産の取得期限

     本特例の適用を受けるためには、原則、譲渡資産を譲渡した日の属する年中に買換資産を取得することが必要です。ただし、その譲渡の日の属する年の翌年中に取得をする見込みであり、かつ、その取得の日から1年以内にその個人の事業の用又は居住の用に供する見込みである場合には、取得価額の見積額により本特例の適用を受けることができます。

     さらに、中高層耐火共同住宅の建築に要する期間が、通常1年を超えると認められる等の事情その他これに準ずる事情があるため、譲渡の年の翌年中に買換資産の取得をすることが困難である場合には、納税地の所轄税務署長に取得期限の延長の申請書を提出し、その承認を受けて、譲渡した年の翌年の12月末日後2年以内の期間内において、税務署長が取得できるものとして承認した日まで、買換資産の取得期限が延長されます。

     

     

    確定申告の要件

     本特例の適用を受けようとする場合には、譲渡資産の譲渡をした日の属する年分の確定申告書にその適用を受ける旨の記載をし、かつ、譲渡資産の譲渡価額及び買換資産の取得価額又はその見積額に関する明細書等を添付する必要があります。

     

  • Point

    • 中高層の買換えに係る所得税の特例の適用対象となる譲渡資産については、本文の(1)~(3)の要件を全て満たす資産である必要があります。また、所有期間が5年以下の短期譲渡所得に該当する土地等でも、本文の(1)~(3)の要件を全て満たす資産であれば、本特例の適用対象となります。
    • 「 譲渡資産である土地等又は建物もしくは構築物の敷地の用に供されていた土地等」以外の土地等の上に建築された耐火共同住宅等は、本特例の適用対象となる買換資産に該当しません。また、買換資産に該当する中高層耐火共同住宅を建築する者は、譲渡資産の取得者又は譲渡者に限られるので、注意が必要です。
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