賃貸管理ビジネス

月刊不動産2024年11月号掲載

騒音トラブルは「感情」と「事実」を聞き分け、 冷静に対応を

代表取締役 今井 基次(みらいず コンサルティング株式会社)


Q

 当社の管理物件で、2カ月前に入居した人が騒音トラブルを起こしており、頭を悩ませています。注意をしても聞く様子がなく困っているのですが、すぐに退去勧告をすることはできるものでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  騒音があるからといっても、直ちに契約を解除することは難しいでしょう。継続的に明らかに許容される限度を超えてしまっていて、それが客観的な事実として認められるものであれば、明け渡しが認められる可能性があります。また、今後同様のことが起こらないように、賃貸借契約や使用規則を徹底してもらうような、内容の見直しや説明の徹底も重要です。

  • 騒音を原因として、 解約を求めることは難しい

     賃貸住宅における騒音トラブルについては、さまざまな種類が存在しています。たとえば、毎晩深夜に大勢が集まって宴会をしているような悪質なケースもあれば、日常生活の範囲といえるような日中の生活音などもあります。人は普通に生活をしている中で、全く音を出さないことはできないため、その騒音が許容範囲内かどうかは、社会通念上、受忍すべき程度を超えているかどうかにかかっています。よって、騒音を発生させている入居者がいて、隣室や上下階の入居者が迷惑を被っていたとしても、賃貸借契約や使用細則の義務違反を原因として、直ちに契約の解除を求めることは難しいといえます。

     明渡しを求めて認められるには、騒音の程度かひどく「その騒音のため、入居者のほとんどが退去した」とか「毎晩、深夜に窓を開けて、大音量の音楽を流し続けている」などを生じさせているケースで、オーナーや管理会社が、何度注意をしても改善の余地がないなど、騒音被害の程度が客観的に著しい場合に限られるものとされています。

  • 騒音トラブルは、上下階での 重量衝撃音から発生しやすい

     ただ、このような悪質なケース以外でも、日常生活のなかで発生する生活音が、人によっては許容できずに「騒音問題」と捉えられてしまうこともあります。その中でも、木造住宅や軽量鉄骨造のアパートなどでは、上下階での生活音が床に響いていることが焦点になります。一般的に、室内で快適に生活ができるのは50デシベル未満とされていて(図表1)、エアコンの室外機や洗濯機を回す音などの日常生活で発する音は、設備からの距離や建物にもよりますが、50デシベルを超えてしまいます。

    図表1:騒音に係る環境基準

    [軽量衝撃音]
    スプーンやコップ、おもちゃなど軽いものを床に落とした音。
    「カシャーン!」「コーン!」「カタカタ!」などの、軽い音。

    [重量衝撃音]
    走ったり、飛び跳ねたり、大きなものや椅子や家具などを引きずる時に生じる音。
    「ドーン!」「ドンドン!」「バターン!」などの、重く響く中低音域の音。

     

     この2つのうち、アパートやマンションなどの共同住宅で問題になるのは、重量衝撃音がほとんどです。上階から音が聞こえたときに、下階の入居者の受忍限度を超えてしまうのかということがポイントになります。昼間であれば全く問題ないと感じていても、音の響きやすい深夜などだと、受忍限度を超えて「騒音」となってしまう可能性があります(図表2)。

    図表2:クレームになりやすい、夜間の騒音の種類

  • 騒音の事実を、客観的に捉える

     このように、人それぞれ気になる騒音の程度は主観であり、共同住宅である以上、入居者はある程度は許容しなければなりません。ただ、日常生活を送るうえで生じる音のレベルでも、人によっては「騒音」と感じてしまうこともあるのです。

     管理会社が騒音についてのトラブル対応をする場合には、まずは、怒りを感じている入居者の「感情」と、生じている騒音などの「事実」とを、客観的に受け入れる必要があります。「感情に理解を示す(共感する)」と同時に、「どの程度の騒音なのか」を騒音計で測り、事実を捉えることが重要です。

  • 管理会社の対応

     調査の結果、通常であれば許容されるような日中の生活音について、限られた入居者が苦情を言っている限りでは、オーナーや管理会社としては、通常の生活音であれば受忍すべきことを説明して対応することになります。逆に、苦情を言っている入居者の受忍限度を超える騒音を出している事実が判明した場合には、その騒音を出している入居者に対して、管理会社は受忍限度を超える騒音を出さないよう通達し、改善が見られないようであれば、賃貸借契約書および使用規約違反による退去を請求しなければなりません。その理由は、貸主は全ての借主(入居者)に対して、快適に使える居室を提供する義務を負っているためです。

     騒音トラブルが原因で退去をしてしまう人の割合は、人的トラブルのなかでも全体の1/3程度もあります。建物自体をすぐに防音改善することはできませんから、管理会社としては、入居時の賃貸借契約時に「一般的な生活音に関することについては許容する」などの抑止をしておくことも、徹底しておきましょう。

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