労務相談

月刊不動産2023年9月号掲載

健康診断の受診時間と受診費用の取扱い

野田 好伸(特定社会保険労務士)(社会保険労務士法人 大野事務所代表社員)


Q

 正社員には毎年1回健康診断を行っていますが、会社の指定休日(平日)に受診させていることから、受診時間について給与を支給しておりません。また、受診費用は会社が負担しているものの、交通費については自己負担としていますが、法的に問題があるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     受診時間を労働時間としていなくても法的な問題はありませんが、法令に従い受診を命じることから、多くの企業では労働日に受診を命じており、受診時間を労働時間としています。また、受診費用は会社が負担すべきものとなっていますが、交通費については労働者負担としても問題ありません。

  • 健康診断の実施と受診義務

     労働安全衛生法では、労働者の一般的な健康の確保を図るとともに、業務上の適正配置や健康管理を目的として、事業者に「一般健康診断」の実施義務を課しています。同時に労働者にも健康診断の受診義務を課しており、正当な理由なく受診を拒否することはできません。

  • 一般健康診断の内容

     業種・業態にかかわらず実施が義務付けられているのが「一般健康診断」です。その内容は、①雇入れ時健康診断、②定期健康診断、③特定業務従事者健康診断、④海外派遣労働者健康診断、⑤給食従業員の検便、⑥深夜業従事者の自発的健康診断とさまざまですが、①~③について以下に説明します。

    ①雇入れ時健康診断
     「常時使用する労働者」を雇い入れた際は、速やか(おおむね2週間以内)に健康診断を実施する必要があります。ただし、対象労働者が雇入れ前3カ月以内に受けた健康診断結果票などを提出した場合は、実施項目について省略することができます。
    ②定期健康診断
     「常時使用する労働者」に対し、1年以内ごとに1回、健康診断を実施する必要があります。実施時期に労働者が育児・介護休業や私傷病休職となっている場合は、健康診断を実施しなくても差し支えありませんが、休業終了後速やかに実施しなければなりません。
    ③特定業務従事者健康診断
     特定業務(有害業務、深夜業務など)に常時従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際、および6カ月以内ごとに1回、定期健康診断と同一項目の健康診断を実施する必要があります。

  • 「常時使用する労働者」とは

     健康診断の実施対象は、正社員等のフルタイム勤務者に限定されません。契約社員等の有期労働者やパート・アルバイト等の短時間労働者であっても、以下のア、イの両方に該当する者は「常時使用する労働者」に該当し、一般健康診断の対象となります。

    ア.雇用期間
    無期雇用者(雇用期間の定めのない者)、または1年以上の有期雇用者(契約更新により1年以上の雇用が見込まれる者、1年以上引き続き雇用している者を含む。なお、特定業務従事者はいずれも6カ月と読み替える)
    イ.労働時間数
    1週間の労働時間数が同事業場に所属するフルタイム勤務者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上の者

  • 健康診断実施後の措置

    ①健康診断の結果の記録
     健康診断の結果は、健康診断個人票を作成し、それぞれの健康診断によって定められた期間(原則5年間)、保存する必要があります。

    ②健康診断の結果についての医師等からの意見聴取
     健康診断の結果に基づき、健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師または歯科医師の意見を聴く必要があります。

    ③健康診断実施後の措置
     上記②による医師または歯科医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、作業の転換、労働時間の短縮等の適切な措置を講じる必要があります。

    ④健康診断の結果の労働者への通知
     健康診断結果は、労働者に通知する必要があります。

    ⑤健康診断の結果に基づく保健指導
     健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません。なお、医師等が再検査を勧めることがありますが、再検査の受診について強制することはできません。

    ⑥健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告
     50人以上の事業場においては、健康診断の結果を遅滞なく、所轄労働基準監督署署長に提出する必要があります。

  • 受診時間と受診費用の取扱い

     一般健康診断の受診時間の取扱いについては、法令上明確にされていません。よって、労働時間としなくても違法ではありませんが、労働者の健康を確保することは事業の円滑な運営に不可欠であるため、労働時間とすることが望まれます。
     また、健康診断の受診費用については、法で事業者に健康診断の実施義務を課していることから事業者が負担しなければなりませんが、事業者が実施する健康診断を受けることを希望せず、他の医療機関等で健康診断を受けその結果を提出した場合は、事業者が当該費用を負担しなくても問題ありません。なお、医療機関等までの交通費については、事業者が当然に負担するものではなく、労使協議のうえ決定するものとなります。

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